ここでいう就業者とは、何も正社員に限らない。パートやアルバイト、それに派遣労働者も含まれる。「最近の特徴として、派遣社員の間でのパワハラの増加がある。派遣社員はいつ契約を打ち切られるかわからない不安定な立場で、専門的なスキルを要求されることが多いため、派遣社員間でも競争意識が働く。そこで、仕事を教えない、あるいは後輩に過剰に厳しい態度で接するなどして、自分自身の存在価値を証明しようとする傾向があるようだ」と岡田代表は話す。

また、パワハラというと上司が部下に対して行うものと思われがちであるが、意外なことに部下から上司に対して行われるパワハラも存在する。たとえば、新しく就任した支店長が気に入らないといって、古参の社員が無視するようなケースである。支店内での仕事の進め方を熟知した古参社員の協力なくして、支店長の務めは果たすことができない。その意味で古参社員はパワーを持っているわけだ。

実際に、この関係の判例も存在する。虚偽の内容のビラをまかれて取引先とトラブルになるなど、部下からのいじめが原因でうつ病になって自殺したのに、労災が認められないのは不当として、遺族が国の処分取り消しを求めた訴訟で、東京地方裁判所は09年5月に処分取り消しの判決をいい渡した。また、男性から女性だけでなく、女性から男性に対するパワハラもありえる。

営業ノルマ自体はパワハラにあらず

ここで問題を1つ。よく営業現場でノルマを課すことがあるが、これもパワハラに該当するのかどうか? パワハラ問題に詳しい山中健児弁護士に尋ねると、「ノルマを設定すること自体に特に問題はない。基本的に達成可能な範囲内での設定であれば、民法709条の不法行為として損害賠償を払わなくてはいけないということにはならない」との答えが返ってきた。

一方、ノルマの達成度合いを人事考課の1項目に入れることもある。しかし、これが解雇にまで至るようだと、解雇権の濫用に当たる可能性も出てくる。「労働契約上の労働義務は、一定の結果の達成を目的とするのではない。その結果を達成するために必要な行為を誠実に遂行していれば、指示された結果を達成できなくとも直ちに労働義務違反となるわけではない」と山中弁護士は語る。