日本のIT化がうまく進まない根本原因
日本でIT化が遅れがちなのは、制度やそれを扱う企業が多すぎること、また、細かい事情に配慮しすぎることが原因だ。カード類も多くの会社が発行して、ポイント付与などを競うので、何枚も必要になるし手数料も高くなっている。
本来は、IT化は弱者にとって有利なのである。各種の公的な支援策も申請しなくてもプッシュ型で自動的に支給されるようにできる。
中国では高齢の行商人がPayPayのようなシステムでしか代金を受け取らないし、仕入れもしない。そのおかげで帳簿を付ける必要も、税金の計算をする必要もなくなっている。
それでは、なぜ、日本は何でも複雑化するのか。それは、細かいニーズに応えようという消費者重視の姿勢もないわけでないが、問題を複雑にすればするほどそこにビジネスが生じ、また、システム開発やメンテナンスにシステム屋さんたちの仕事が生じるからだ。
それを解消しようとするなら、消費サイド(企業も含む)が、目先の小さなオマケに惑わされず単純なシステムを好むことが必要だ。行政には、社会を分かりやすくシンプルにするための施策を講じることが求められる。
たとえば、各社バラバラのシステムが併存したり、地方ごとに別のシステムを利用したりするより全国統一システムを採用するほうが適切なときは、行政自身が統一システムの採用を断行する、あるいはバラバラのシステムを乱立させないように法規制をしなければいけない。
日本人は個人情報の管理を役所に任せすぎている
マイナ保険証の発行手続きでミスが続出したことについては、保険組合の仕事の質がそもそも低く、間違いが続出してきているのだから、今回のような程度のミスは予想の範囲内だし、一元化によって誤給付もなくなっていくだろうから、過度に気にする必要はない。まして、間違いを犯した組織やシステムを温存する口実に使うなどもってのほかだ。
ただ、デジタル庁や厚生労働省は、職員によって作業の質に差が出ないよう、手順を少々面倒でも間違えにくいものにする工夫が必要だったし、それ以上に、被保険者本人に間違いがないか、しっかり確認を行うように呼びかけ、責任も取らせるべきだったと思う。
そもそも日本人は自分についての公的情報が、正しいかについて無関心すぎると思う。私は以前から、例えば5年に1度いちど、市役所が住民を呼んで対面で、必要な公的な情報が正しく登録されているか、必要な書類を自分で保管しているか、暗証番号は分かっているか、申請できるのにしていない公的扶助はないかなど、チェックすることを義務づけるべきだと主張している。
日本では、役所はサービス産業で、公務員はシビル・サーバントなどという考えが蔓延して、国民が公に対して甘えすぎ、そして任せすぎだ。もちろん、そうあってほしい場面も多いが、国民はむしろ国や自治体の主権者なのであるから、消費者でなく株主みたいなものだ。