殺害されたとしたら、犯人はだれなのか
佐藤氏は、X子の夫だった種雄氏を殺した人間は別にいると考えているそうだ。女性ひとりで、大柄な被害者を頭の上から刺すことはできない。血の付いたナイフに両面テープを巻き、後から来たYの指紋をつけるよう工作してあった。彼女と親しい別の男、Zがいたとみているというのである。
文春(8月10日号)によると、事件当夜、大塚署に種雄氏の家庭内暴力についてZが相談に行っていることが、署の記録に残っているという。そして事件が起こり、捜査一課はZにも任意聴取をしようとしたが、「途中で拒否された」(佐藤氏)そうだ。
文春は、そのZと思しき男も直撃している。Zは文春の取材に激昂した。だが、その中で記者にこういい放ったというのだ。
「もう覚えてないっちゅうの。現場には行ったよ」
現役時代にX子を取り調べたベテラン刑事が、地方公務員法に引っかかるかもしれない事件の取り調べの内容を文春に話したのは、捜査が佳境に入り、捜査員たちが懸命に「犯人」を追い詰めようとしている時、突然、“上から”潰されてしまった理不尽と無念。政治権力が動いたのではないかという疑念が彼を突き動かしたのである。
7月28日、佐藤氏は会見を行った。140人近くの記者たちが詰めかけたが、やはり、新聞もテレビも大きく報じることはなかった。
だが、この事件は次なるフェーズに入ったはずである。
自殺の根拠を遺族に丁寧に説明すべき
警察のトップが何らかの“政治的配慮”をして、有力政治家の妻の殺人疑惑の捜査を恣意的に止めたのではないか。国会で追及されるべき「重大案件」になったのは間違いない。
岸田首相は次の内閣改造で木原氏を切り捨てるという観測が流れているが、それで終わりにしていいはずはない。
殺人事件に時効はない。警視庁は自殺だと判断し、捜査の終了を命じた根拠を両親に示すべきである。だが、文春(8月10日号)によれば、7月24日に父親と種雄氏の2人の姉を大塚署に呼び出し、捜査一課の担当者が、「事件性は認められません、捜査は尽くしています」と繰り返すだけだったという。次姉は悲憤慷慨してこう話している。
「今回は根拠も説明せず『捜査は終わっています。当時の捜査員がいないので、終わった時期はわかりません』と言うのみでした」
佐藤氏を含めた当時の捜査官たちは「これは殺人事件だ」といっているのに、それが違うというのなら、その根拠を遺族に丁寧に説明すべきこというまでもない。それができないのなら、事件の再々捜査を命じるべきではないのか。そうでなければ、警察全体が国民の信頼をますます失うことになる。