なぜ新聞はこの事件を取り上げないのか
それにしても、テレビは論外だが、新聞はなぜこの事件を書こうとしないのだろう。両親の会見には50人もの記者たちが集まり、そこには大新聞の記者も来ていたはずである。
だが、東京新聞などが共同通信から配信された小さな記事を載せただけで、朝毎読は載せていないようだ。私が見た朝日新聞には載ってなかった。7月22日、木原氏の妻が文藝春秋を相手取り、日本弁護士連合会に人権救済を申し立ててようやく、新聞もこのことを小さく取り上げた。
しかし、
「警視庁捜査1課幹部は13日、報道各社の取材に『所要の捜査をした結果、事件性は認められなかった。死因は自殺と考えて矛盾はなかった』と説明。警察庁の露木康浩長官は13日の記者会見で報道を問われ、『警視庁において捜査等の結果、証拠上、事件性が認められない旨を明らかにしている』と述べた」(朝日新聞7月25日付)
と、事件性はないから改めて捜査はやらないという警察トップのいい分を、そのまま載せただけだった。
妻の聴取をした取調官が実名告白
これに対して文春(8月3日号)は驚くべき証言を掲載したのである。
警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」といわれる部署に昨年まで在籍し、木原氏の妻X子を取り調べたサツイチの「エース」佐藤誠元警部補が実名で反論したのである。
「警察庁長官のコメントは頭にきた。何が『事件性はない』だ。あの発言は真面目に仕事をしてきた俺たちを馬鹿にしてるよな」
さらにこう語る。
「あのとき捜査に関わった三十人以上のメンバーは誰しも、捜査を全うできなかったことで今でも悔しい思いをしている」「俺は去年退職して、第一線を退いた。失うものなんてない。職務上知り得た秘密を話すことで地方公務員法に引っかかる可能性がある、だ? そんなことは十分承知の上だ。それより通すべき筋がある。現役の奴らの想いもある。もう腹は括った。俺が知っていること、全部話すよ」
佐藤氏が文春の取材に答えた時間は延べ18時間にわたったという。
捜査は、警視庁捜査一課特命捜査対策室特命捜査第一係(通称トクイチ)十数人、サツイチ十数人、大塚署を含めて3~40人体制だったという。「これは特捜(特別捜査本部)並みの人数だよ。サツイチが入り、『やっぱり事件ではありませんでした』なんていう話は、俺が捜査一課にいた十八年間で一度もないよな」(佐藤氏)