成長も老化も遅い「感情系脳番地」

脳の成長と適応を理解するうえで必要なのは、「脳番地」という概念です。脳は場所ごとに機能が決まっています。同じ働きをする神経細胞とそれをつなぐネットワークによって、脳を区分したのが「脳番地」です。

細かく分けると脳番地は約120あるのですが、機能別では8つの系統に分類することができます。その中でも感情系脳番地は衰えにくく、老化が遅く、いくつになっても成長することがわかっています。

また、感情系脳番地は記憶系と思考系と強い連携があります。すごく楽しかったこと、とてもいやだったことが記憶に残りやすいのはそのため。気持ちがたかぶった興奮状態のときや、不安にさいなまれているときに、適切な選択ができないのも、感情系と思考系がつながっているからです。

感情系脳番地も運動系と同様、“経験”によって成長します。たくさんの人と接することによって、「あの人はこうだ」「自分はこうだ」と、自己認知を高めていきます。そして、さまざまな感情をもった人との出会いによって複雑で多様な感情があることを学びます。

他者とのかかわりの中で相手の感情に触れながら、一方で自己感情が研ぎ澄まされ、成長していくのです。また、感情系が刺激されると、記憶系や思考系も連動し、脳全体が活性化していきます。

ただ、感情系脳番地はとても成長が遅い、という残念な特徴があります。

感情を育む機会が失われているということは、感情系脳番地が育ちにくい、劣化しやすい、ということでもあるのです。

左脳は言語化された情報を処理している

とくに顕著になっているのが、左脳の感情系脳番地の衰えです。右脳の感情系脳番地が、他者感情に関係しているのに対して、左脳の感情系脳番地は、自己感情の生成に深く関係しています。

感情系脳番地に限らず、同じ脳番地でも右脳と左脳では働きが異なります。ざっくりというと、右脳は映像系の処理を、左脳は言語系の処理を行っています。

右脳は非言語の情報をいろいろな要素から直感的に取り入れて処理する働きがありますから、環境に対して非常に適応しやすく、情報をすみやかに処理することができます。対して左脳は、言語化された情報――いわばデジタル化された情報を処理する脳です。