なぜ人間には睡眠が必要なのか。脳内科医の加藤俊徳さんは「脳は寝ている間に老廃物を排出し、記憶を定着させている。睡眠不足になるとこの機能が衰え、昼間の脳の覚醒にも影響を及ぼすため、『つらい』『しんどい』といったネガティブな感情に陥りやすくなる」という――。

※本稿は、加藤俊徳『一生成長する大人脳』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

認知症やアルツハイマー病による記憶喪失と脳老化の概念を、3Dイラスト要素を持つ人間の頭が葉を失う人間の頭の形をした下木を持つ医療アイコンとして。
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脳を使いすぎると「酸素疲れ」が起きる

脳のために絶対にやめてもらいたいのが夜更かしや徹夜です。睡眠不足は脳へ大きなストレスを与えます。

脳が活動するとき、ほかの臓器と同様に酸素を消費しています。酸素を運ぶのは血液ですから、脳が一生懸命働くと、活動している脳番地の血圧が上がります。しかし、それによって脳のエネルギーを余計に使ってしまうため、脳の働きが非効率化してしまいます。

私はこれを「酸素疲れ」と呼んでいますが、脳に生き生きと働いてもらうためには、酸素疲れから回復させる必要があります。そのもっともよい方法が睡眠なのです。

じつは寝ている間も脳は記憶の整理や老廃物の排出など働いていて、電源を落とすようにオフにはなりません。それでも、睡眠中は新しい情報が脳に届きませんから、日中、フル回転している脳にとっては休息になるのです。

寝ている間に記憶は「海馬」から大脳皮質へ

また、寝ている間に脳は記憶の定着をしています。その日あった出来事から得た情報はすべていったん「海馬」に保管されます。

海馬は短期的な「記憶の保管庫」であり、同時に、長期記憶として残すべきものを選別する役割を担っています。ノンレム睡眠と呼ばれる深い眠りのとき、海馬に選ばれた短期記憶が大脳皮質へと送られ、長期記憶となります。

会話の中に「あれ」「あの」が増えたり、固有名詞が出てこなかったり。その原因はいくつか考えられますが、寝不足が原因ということも十分に考えられます。また、海馬はストレスに弱いという特徴もあります。ストレスがあるとき、睡眠の質は低下しがちですから、ストレスによる睡眠不足はダブルで記憶がとどまらなくなります。

睡眠不足は記憶の定着、ひいては認知症の発症にもかかわっていきます。忙しくて睡眠時間が取れない、という人もいるでしょう。しかし、忙しいからこそ、睡眠を大切にすべきです。