なぜ朝起きたらスムーズに作業できるのか

「眠る前は明日やらなきゃいけないことがあって嫌だなと思っていたけれど、朝起きたらすんなり作業できた」

学生時代の宿題や、仕事の資料作りなどで、こんな経験をしたことがありませんか?

この場合、やる気を出すために何もしていません。ただ、眠っていただけです。でも、眠ることによって、眠る前とは何かが変わるということは、誰しも経験があると思います。眠っているうちに、脳の働きによって記憶が変わっているのです。

最近は、睡眠と記憶の関係を明らかにする報告がどんどん出ていて、睡眠中にも脳が働いているという認識は、一般的なものになりつつあります。「朝になったらすんなりやれた」という経験を裏付ける科学的根拠が出そろっているのです。

では、脳がどんな作業をして、自身をやる気にさせているのかを見てみましょう。

記憶の仕組みには、「2段階モデル」という有名なモデルがあります。記憶を司る脳の場所は、海馬と大脳の側頭葉にあります。海馬は、物事をすぐに覚えますが忘れやすいです。大脳の側頭葉は、物事をすぐに覚える役割を持っていませんが、覚えたことは忘れにくいです。

私たちが、目覚めている間に体験したことは、まず、覚えやすい海馬が記憶します。そして、記憶が消えてしまわないうちに、大脳の側頭葉に移します。このプロセスを「2段階モデル」と呼びます。

この2段階目にあたる、海馬から大脳の側頭葉に記憶を移す作業が、睡眠中に行われています。これが、脳が自身をやる気にさせている仕組みです。

質の良い睡眠に重要なのは「夜」ではなく「昼間」の過ごし方

大脳に記憶が送られると、要素別に分解され、それぞれ関連した記憶につながってネットワークが形成されます。

1つの記憶をとどめておくには大きな容量が必要ですが、ネットワーク上に要素が散らばっていて必要なときに再集結して思い出すのならば、使用する容量を減らし空き容量を増やすことができます。これで、新しいことを覚えることができる余裕がつくられます。

さらに睡眠中の作業により、起きているときには解けなかった問題が解ける「ひらめき」が起こることがあります。

ひらめきは、一見、無関係な分野の情報同士が結びついたときに生まれます。脳内のネットワーク上に散らばった情報が再集結する際に、覚えたときとは異なる情報も加わることがあるので、記憶が質的に変化するのです。

こうした睡眠中の情報処理によって、前日の経験は「未来の予測に使える記憶」に作り変えられます。これで見通しが立たない冒険の中で、すでに知っていることの割合が増えて、「わかってきた」「もうちょっとでできそう」という設定が出来上がるのです。

どんな状況に置かれても、眠ればなんとかなる、という感じがしてきますね。

ところが、睡眠の質が悪いと、記憶の整理に必要な作業が行われないことがあります。ただ眠れば脳がやる気になるわけではないのです。

脳をやる気にさせるには、睡眠の質を高める必要があります。

では、睡眠の質を高める方法と言われると、どんなことが思い浮かびますか?

眠る前の過ごし方やサプリメント、快眠アプリやマットレスが思い浮かぶかもしれません。これらの方法を用いて、睡眠の質は上がりましたか? もし、いまいち効果を感じられなかったならば、発想を変えてみましょう。

これらの方法の共通点は、すべて眠る時間に着目していることです。

実は、質の良い睡眠に重要なのは、夜ではなく、昼間の過ごし方なのです。