台湾とウクライナにおける核戦争リスク
以上から、台湾やウクライナといった、中露それぞれが戦略上極めて重視している地域を除けば、米国との全面核戦争へとエスカレートする可能性のある地域的な紛争要因は事実上存在しないと考えていいだろう。この例外を除けば、現在の戦争は、純然たる地域レベルのダイナミクスに基づいて展開すると考えられる。ここでは、その前提の上で、現代の戦争を4つのタイプに分類しておきたい。
最初に取り上げるのが、域外大国の軍事介入の形を取る戦争である。例えば1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争、2015年のロシアのシリア介入などを挙げることができる。
こうした、域外大国の軍事介入という形を取る戦争の特徴は、介入する国がグローバルに兵力を展開させる能力を持っており、またそれを支える補給システムも持っているということである。
アメリカが地球の裏側まで軍事介入できる理由
逆に言えば、そうした能力を持たない国は、他の地域の紛争に介入することができない。例えば米国にとって中東は地球の裏側に等しい場所にあるが、そこに戦車のような重装備や大量の武器弾薬を送り込むためには、大規模な海上・航空輸送能力が不可欠になる。また、自国領土から遠く離れたところでの作戦でも、有効な指揮統制が行えるC4ISRシステムが整備されていなければならない。
こうした作戦のことを米国では、「遠征作戦(expeditionary operation)」と呼ぶ。そもそも米国は米本土での軍事作戦はほとんど想定されないから、事実上すべての作戦が遠征作戦となる。そのため、それぞれの地域の指揮統制のために地域レベルの統合司令部を設置している。
例えば日本の位置するインド太平洋地域であれば、ホノルルに司令部があるインド太平洋軍、中東であればフロリダ州タンパに司令部のある中央軍、ヨーロッパであればドイツのシュトゥットガルトに司令部のある欧州軍である。そして、それらの地域レベルの統合軍を支援する機能別統合軍もある。遠征作戦の観点で重要なのは、部隊や補給物資の輸送に特化した輸送軍である。このように、米国は遠征作戦のために様々な準備を行っている。