読みの甘さを象徴する三木谷社長の発言

しかし、これはまだ、序の口に過ぎません。基地局設置に関しては、その投資額に関する見通しの甘さが何より致命的でした。当初の投資計画では基地局整備に必要な投資は約6000億円を想定していたようですが、現状で既にそのほぼ倍額が投じられながらもいまだ目標の通信人口カバー率99%以上に至らず、なのです。

この巨額投資地獄が、とりもなおさず楽天の財務状況を悪化させた根源となったのです。すなわち人口カバー率99%以上達成を甘く見過ぎていたことが、今の大苦境に直結したと言えるでしょう。

この点での読みの甘さを象徴したのが、22年度決算発表時の三木谷社長の発言です。22年末時点の楽天モバイルの通信人口カバー率が前年の95.6%から98%に向上し、「7年かける計画を3年で達成し、基地局投資は24年度で一段落する」と息巻いていたのです。

しかし、この発言を聞いた3大キャリア幹部が、「ここからの1%が地獄の苦しみだということを、三木谷さんはご存じではないのでしょう」と冷めた言い方をしていたのが印象的でした。

楽天モバイル 名古屋栄森の地下街店(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

6万局では勝負にならないのは明白

現実を見れば、三木谷社長の見通しの甘さ、考えの甘さは明白です。社長が同社基地局数の当面の目標としていたのが、6万局です。一方で、NTTドコモの国内基地局数が約26万局(4G)、auは約20万局、ソフトバンクでも約17万局を備えています。

ソフトバンクですらいまだに、「上位2社に比べてつながりが悪い」と言われていることを考えれば、6万局ではおよそ勝負にならないのは明白であり、「基地局投資が24年度で一段落する」などという考えこそ大甘であったことが分かるでしょう。

結果的に、今年5月にKDDI(携帯キャリアはau)回線借用契約におけるローミング(相互乗り入れ)の拡大を決めました。これまで楽天は、受信状況の悪い地域ではau回線を借用して穴埋めしつつも、あくまで自前の基地局増強による早期の回線借用解消をめざしてきたわけですが、都心部も含めたすべての地域でau回線を使って「つながりやすさ」を実現しようというのです。180度の方針転換です。楽天のただならぬ苦境と、基地局整備に対するこれまでの見通しの甘さが、ここに完全露呈したと言えます。