「2階建て」になるはずが実施前に撤回になる異例の展開

2019年12月に発表された「令和2年度税制改正大綱」では、NISAの大きな見直しが発表されました。2024年からスタートするはずだったのに、実施される前に撤回されるという異例の経緯をたどった、「2階建て」の制度です。

写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

金融庁は長期的な資産形成のためにつみたてNISAをつくったのですが、短期的な利益を狙った多額の資金が一般NISAの口座に入る状況は変わりませんでした。

2022年12月時点の口座数を見ると、一般NISAは1079万929口座なのに対して、つみたてNISAは725万3236口座。つみたてNISAも、ある程度、健闘しているように見えるのですが、問題は買付額です。一般NISAは27兆9260億4367万円であるのに対し、つみたてNISAは2兆8206億8411万円しかありません。NISA全体の買付額の90%以上が一般NISAによるものなのです。

証券業界の思惑

金融庁は、本音でいうと、一般NISAをなくしたいと思っていたはずです。

中野晴啓『50歳からの新NISA活用法』(PHPビジネス新書)

しかし、証券業界は一般NISAの存続を望んでいました。理由は、一般NISAを廃止すると、一般NISAを通じて買い付けられた30兆円近くの株式や投資信託が売却され、多額の資金が証券市場から流出する恐れがあるからです。

金融庁も、こうした証券界の意見を完全に無視することができません。そこで、一般NISAの口座で株式の個別銘柄に投資するためには、一定額、つみたてNISAの対象となっている投資信託などを買わなければならないという、非常に複雑怪奇な仕組みを考え出しました。つまり、1階部分でつみたてNISAの対象である投資信託を買って初めて、2階部分で株式の個別銘柄などに投資できるという仕組みです。

これは明らかに、一般NISAでの投資意欲を削いで、つみたてNISA中心にシフトさせていこうという狙いの表れだったと思います。

この複雑怪奇な仕組みが公表されたのが、「令和2年度税制改正大綱」でした。

あまりにも複雑な仕組みだったため、私はこれではとてもNISAを普及させることはできないと思いました。私の経営していた投資信託会社では、つみたてNISAにはこれまで通り取り組んでいくけれども、一般NISAからは撤退してもいいというくらいに考えていました。

結局、さまざまな方面から批判の声が上がり、新制度が実施される前に撤回されるという異例の事態になり、新たに作り直されたのが、2024年1月からいよいよスタートする新NISAです。