「おはよぉぉ‼ うぉー! お前ら元気か! 棒倒し訓練行くぞー!」

つまり、棒倒しで優勝することは、防大生活における「富・名誉・名声」の全てを手に入れることになるのです。そのため、例年、「棒倒し総長に俺はなる!」や「棒倒しのためなら死ねる!」と語る「棒倒しに魅せられた学生」が誕生し、各大隊は栄光のグランドラインに向けて出港します。

棒倒しの訓練は10月より始まり、各大隊が栄光に向けて走り出します。訓練期間中は朝の点呼後(06:05〜)と課業終了後(16:00〜)に各大隊がトレーニングを行います。それでは訓練内容について解説をしましょう。

起床のラッパが鳴った後に布団を畳み、棒倒しの訓練用の服装に着替え、ダッシュで5分以内に隊舎の前に集合し、点呼を行います。点呼終了後に棒倒し総長に選ばれた代表学生が朝礼台に上がり、「おはよぉぉ‼ うぉー! お前ら元気か! 棒倒し訓練行くぞー!」と絶叫します。起床してすぐに誰かの絶叫を聞くため、防大は低血圧な人間は生きていけない世界だと改めて実感します。

その後に整列をし、学生たちはグラウンドに訓練に出かけます。グラウンドに行くときはドラム缶太鼓を叩きながら「ソイヤ! ソイヤッ!」「セイヤ! セイヤ!」「ウッシャー!」などと声出しをしながら、腕を振り上げて進みます。ここで「防大ではなくて、○○大学に進んでいたら今頃は恋人と……」などとは決して思ってはいけません。もう手遅れです。

早朝訓練のメリット「朝ごはんが少し美味しくなる」

グラウンドに行くとタックルや受け身の練習、跳び馬などをします。10月になると気温が下がり、寝起きなので身体はガチガチです。秋風に身体はこわばり、寝起きの身体に受け身は痛く、グラウンドの草たちがチクチクと身体を攻撃してきます。

学生のテンションが下がると、棒倒し総長の学生が「お前ら気合を入れろー!」などと大声を出し、活を入れます。雰囲気としては、「いくさ」が始まる前に、足軽になる農民が武士から訓練を受けている感じです。

1学年は、ここで死ぬ気で頑張ると「あいつは気合が入っている!」と上級生から認められ、だるそうな姿を見せると上級生から温かいご指導が待っているため、必死に頑張ります。4学年ともなると、「寝技の練習をしているふりをして居眠りする」「1学年を指導して自分はやらない」などの技を駆使して体力を回復させます。

正直なところ、早朝訓練は大したことをしないので効果のほどは分かりませんが、最大の恩恵として「訓練でお腹が空くので朝ご飯が少し美味しくなる」とお伝えしておきましょう。

写真=iStock.com/gyro
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