私服で街を歩く気分はまさに「シンデレラ」

苦難の1学年の日々を乗り越え、2学年のカッター競技会が終了すると、学生は私服外出・外泊OK(回数制限あり)となり、私服に着替えて街に繰り出すことができます。カッター競技会を終了した2学年は、「人権を取り戻した」と天にも昇る心地になります。

2学年からは下宿を学生が共同で借り、そこで防大の制服を脱ぎ、私服に着替えて外出する人も多くなります。防大の最寄りである浦賀駅〜馬堀海岸駅近くのアパートは「人が住んでいる気配はないが服や物がたくさんあり、休日になると若者が出入りしている」という不審物件が多いですが、それは防大生の巣穴です。

私服に着替えて街を歩く気分は、まさに「シンデレラ」と同じです。

いつも虐げられているシンデレラが、魔法の力でおしゃれをしてお城のパーティーに行くように、防大生はヘアワックスで髪型を整え、サングラスやネックレスなどを身につけ、京急線というカボチャの馬車で夢の世界へ旅立ちます。

日曜日の午後10時までには帰らなければならない

みなとみらいの夜景を見ながらカクテルを飲む、上野の美術館で教養を高める、渋谷のクラブで踊りまくる、中目黒でパンケーキを食べる、川崎の繁華街でムフフなお店に行くなどして、きらびやかな世界を満喫します。

街の空気に触れた防大生は、舞踏会のシンデレラのように「なんて素敵な世界なの」と目を輝かせ、見るもの全てに心を震わせます。

ぱやぱやくん『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』(KADOKAWA)

ただ、防大では門限が定められており、日曜日の22:00までには帰校をしなくてはいけません。シンデレラが王子様と踊って夢心地になっているときに、「いけない! 帰らなくちゃ」と走って去るように、防大生も「いけない! 帰らなくちゃ! 魔法が解けちゃう!」とかわいい恋人とのデートや楽しい飲み会を中断し、凄まじい勢いで駅に走って向かいます。最寄り駅でタクシーに乗り込み、運転手さんに「点呼のラッパが鳴っちゃう」と急かしながら防大に帰っていきます。

そうして、夢の世界から1学年がドタバタと走り回る防大に帰ると、「これが俺たちの世界だったな」と現実の世界に帰っていくのでした。

つまり、防大生の外出とはひとときの夢にすぎず、彼らは魔法が解ける前に帰らなくてはいけない「シンデレラ」なのです。

※防大生がよく使う表現の一つであり、自分の幸せ度を示す。1学年のときは幸せレベルが常に底辺のため、ちょっとしたことで幸せを感じやすい。

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