スマホに依存した予約至上主義

スマホに依存した過度な予約至上主義もまた、来園者の大きなストレスになっている。

コロナ禍以降は、システムが特に複雑化した。日本でも一時期、アプリをインストールして「スタンバイパス」を取得しなければ、一般列に並ぶことさえできない状況となっていた。現在でも一部のショーとグリーティング(キャラクターとのふれあい)を対象に、「エントリー受付」と呼ばれる抽選制度が導入されている。

こうした事情はアメリカでも同じだ。値上げにより滞在予定を短縮したという前出のアメリカ人女性は、CNNに対し、「ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)を訪れたのが旅行の中でも最もストレスの多い一日だった」と語る。ライトニング・レーンの利用時間を加味した行動計画を綿密に立て、予約や抽選をひたすら繰り返さなければパークを最大限楽しむことができないからだ。

パーク情報を報じる米インサイド・ザ・マジックは、これが来園者の体験を蝕んでいると分析している。記事は「バケーションはいまや神話に過ぎず、早朝(からの行動)、携帯の充電切れ、長蛇の列など、安らぎとはほぼ正反対のことが当たり前のようになっている」と指摘する。

事前に申し込まないとアイスすら買えない

何もかもを計画し有料で購入する制度は、パークを自由に楽しむゆとりを奪った。ロサンゼルス・タイムズ紙は、なかでも「自発性の終焉しゅうえん」が最大の苦痛になっていると指摘している。

同紙記者は、予約が重視されていなかったコロナ禍前までは、「私は歯を食いしばってクレジットカードを握りしめ、息子たちと私のチケットを3枚購入したものだ」と振り返る。この時もチケットは高かったが、「しかし、微笑みながら1日の作戦を立てるとき、そこにはいつも小さな興奮があった」という。

だが、以前ならば仲間たちと興奮を共有していたところ、今ではわかりにくいアプリを共有しているだけになったと記者はいう。事前にアプリをダウンロードし、使い方を予習しない限り、「終わりのない行列とフラストレーションに満ちた長い1日になることを覚悟しておこう」と述べている。

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予約が必要なのは乗り物だけではない。同紙記者は暑い昼下がりを乗り切ろうと、「魅惑のチキルーム」近くのアイスクリームのワゴンに足を運んだ。並んだ挙げ句、アプリの予約がないとアイスを買えないと告げられ、肩を落としたようだ。

指示通りに予約してから30分後には無事買えたというが、「戻ってきた時には火を噴くハワイの女神・ペレのような気分になっており、すでに高まっていたイライラが増していた」と不快感を露わにする。