日本の神々の名前には「むすひ」がつく

【田中】古事記』に記されている日本の最初の神は、天之御中主神あめのみなかぬしのかみといいます。その次が高御産巣日神たかみむすひのかみ、その次が神産巣日神かみむすひのかみです。この3柱の神は「造化三神」といって、とても大事な日本の神さまですから、皆さんも覚えておくといいでしょう。

【茂木】天照大御神やイザナギよりも上の世代にいる神さまで、お名前からは万物宇宙の根源的存在と考えられますが、具体的なエピソードを持たない謎の神々です。

【田中】これらの神々の名前には「むすぶ/むすひ」という言葉が出てきます。それはつまり家族を結ぶことが一つ、それから縄文の「縄で結ぶ」ということとも関連してきます。「息子」「娘」などの「ムス」もそういった意味、つまり両親が結ばれて生まれた言葉といえるでしょう。

日本人はそういった「皆が結ばれているという感覚」があるからこそ安心し、心が安定するわけで、守られているという意識を知らず識らずのうちに持っています。それは何かというと、自然の中で男でも女でも、大人でも子どもでも“安全に生きていける”という感覚なのです。

それが具体的なのは、集落の貝塚からわかります。貝というのは、海に行けばあるわけだから拾ってくればいいわけです。これは女でも子どもでもできることですね。森の木の実もそうです。栗は「どうぞお食べください」と天から落ちてきます。だからそのように自然の恵みの中で十分に生きられるならば、財産、蓄財にはあまり執着しなくなるわけです。

日本の国家概念は縄文時代に芽生えていた

【茂木】やまとことばの「むすひ」には「産霊」という漢字をあてますね。まさに「魂を産む」といった生命の誕生に関わる言葉で、“苔のむす(産す)まで”に見られるように、昔から大切にされてきた言葉です。「おむすび」もそうかもしれません(笑)。

【田中】おっしゃる通りですね。家族とは人間のむすびの元といえるでしょう。「国家」という言葉に「家」という漢字をつけたのも、非常にうまい日本語です。西洋の「国」を表す「ステイツ」とか「ネイション」なんていう言葉には「契約」しかないともいえます。

そういう日本の国家概念というのは、もうすでに縄文時代に芽生えているものだとわかるでしょう。縄文の文明というのは、そういう意味でもとても大事なのです。