縄文時代は三世代が竪穴式住居に住んでいた
【田中】日本は、かつては資源が豊かな島国だったのです。海と森の恵みによって争いは少なく、都市には城塞は必要なかった。ただ、日々の生活が大事になってくると、日本人はみな「家族」という意識が強くなってきます。なぜ、日本人の心は安定しているのかというと、基本的に「年功序列」ということが要因としてありますね。つまり、人が集まると必ず年上の人を意識します。そうすると一つの秩序ができるようになるのです。
これは、家族でも学校でも会社でもそうですし、また、天皇家という存在についても、日本で一番長く続く家系として、この国の主人なのだという意識ができあがっている。
この心境の形成には、長い間住んでいた竪穴式住居というのも意外に無碍にできません。竪穴式住居は二世代・三世代が一緒に暮らすには、ちょうどいい大きさの家なのです。西洋のように個々の部屋で分かれるわけではないですから、家族の秩序というものを保たないと生きていけません。
父親、母親、兄弟、姉妹、お爺さん、お婆さん……こういう各世代が一つ屋根の下で暮らすことによって、しっかりと上下関係が生まれるわけです。そんな戦争のない縄文時代は、1万年以上続きました。
日本人は大事にする「長い」という言葉
【茂木】「上下関係」というと、すぐ「差別だ!」「封建制だぁ!」と脊髄反射する人がいますが、世界共通の古来の共同体の秩序、現代社会では失われつつある家族の原型ですね。
【田中】共に暮らすことで、父母に対する尊敬というものが、おのずから生まれるのです。だから日本では「長い」という言葉が大事なのです。社長、部長、村長……このような“役割”があることによって秩序ができているといっていいでしょう。
共同社会にとっては、バラバラにならないことが何より大事です。その役割によって命令系統がはっきりし、それによってそれぞれが役割分担をして働くことができれば、これほど強い共同体はないのです。それが日本の共同社会の仕組みですね。精神的な一つの和ができるのです。