『源氏物語』では光源氏は多くの女性にアプローチをしている。紫式部はそれぞれの女性についてどのように描き分けたのか。作家の中村真一郎さんの著書『源氏物語の世界』(新潮選書)より、一部を紹介しよう――。
源氏物語画帖(写真=CC-Zero/Wikimedia Commons)
源氏物語画帖(写真=CC-Zero/Wikimedia Commons

光源氏は多様な種類の女性と関係を持った

源氏は何人かの妻を、次つぎとめとったが、その間にも様ざまな情人を持った。

それは彼が人並み外れた多情な男だったというより、当時の貴族社会の風習であった。

ただ作者紫式部が、恐らく自分の満たされない欲望を空想のなかで解き放って作りあげたこの小説の主人公は、行状そのものは当時の風習に従っているとしても、恋愛におけるその心の放蕩ぶりは、いかにも女性向きにできている。そこのところが興味深い。

まず、第一に源氏は様ざまな型の女性のあいだを遍歴している。男性によっては、その理想の女性の型はひとつだけで、何人、情人を持っても妻と同じ型の女である、という場合があるが、源氏はその正反対で、ほとんどあらゆる型の女性に関心を持ち、いわば自分のその恋の多様性そのもの、ひとりひとりの女の違いそのものを愉しんでいる。

紫式部は源氏に「愚かな女」を冷淡に扱わせた

第二は、作者自身が、好きな女と嫌いな女との間に差別を立て、そして主人公源氏に、その差別に従って愛情の度合を左右させている。

作者が軽蔑しているのは、愚かな女である。そして、女は愚かさによって、男から冷淡に扱われても仕方ない、と突き離している。