新規投資と人員を減らし、守りを固めていたが…

さらに、世界的に景気の先行きは不透明化し、企業の業績懸念も高まった。米国では、SNSやサブスクリプションなどのビジネスモデルの行き詰まり、コスト増加などによりグーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アップル(GAFA)などIT先端企業の業績が悪化した。スマホやパソコンの需要も減少した。2022年、米国のナスダック総合指数は33%下落した。

特に、ソフトバンクグループが出資した、ITスタートアップ企業からは急速に投資資金が流出した。テレワークによる空室率上昇もあり、米国では商業不動産の価値も下落した。2023年3月には、米シリコンバレー銀行などが破綻し、欧州ではクレディスイスの救済買収も実施された。

厳しさ増す事業環境に対応するため、SBGは新規の投資を減らした。人員も削減した。アリババ株の売却や投資先企業の株式公開も進めた。現金は積み増され、経営の守りは強化された。

「アームの爆発的な成長に没頭する」と宣言

一方、6月21日に開催された株主総会のプレゼン資料で、SBGは反転攻勢に打って出る考えを明確に示した。一つのポイントは、AIの利用増加にある。SBGは、AIがわたしたち人間の知能と同等、それを上回る能力を持つ世界(シンギュラリティ)の実現を目指している。

それが実現すると、これまで多くの時間とコストがかかったシミュレーションなどが行いやすくなる。企業の事業運営、経済運営の効率性は高まるだろう。AI進化の加速に重要な役割を担うのがアームだ。

2022年11月の決算説明会で孫氏は、「今後、数年はアームの爆発的な成長に没頭する」と宣言した。その後、世界のIT先端分野では急激に生成AIの利用が増えた。株主総会のプレゼン資料によると、アームの収益はAI利用増加に伴って伸びている。2022年度の収益は14億8400万ドル(1ドル=140円換算で約2080億円)に増加した(前年度は9億9900万ドル)。

アームが提供するチップの設計図は、米エヌビディアが開発した“グレースCPUスーパーチップ”などに採用された。それを支えに、“チャットGPTなど”生成AI利用は急増した。AIの開発も勢いづいた。