なぜ東海地方でスガキヤは愛されるのか

ところで、冒頭に紹介した「スガキヤ」店舗が愛知・岐阜・三重の順に多いのは、喫茶店文化ともリンクする。モーニングサービスが盛んなのもこの3県で、三重県は四日市市あたりまで。スガキヤ店舗がある静岡県は「浜名湖を過ぎると文化が変わる」といわれ、首都圏に近づく静岡東部ではモーニング文化もあまり見られない。

ちなみに、メディアでよく紹介される「喫茶代におカネを使う都市」(※)の最新数値は、次のとおりだ。岐阜と名古屋が1位と2位を占めるのは長年変わらない。

1位 岐阜市 1万5616円
2位 名古屋市 1万3427円
3位 さいたま市 1万1112円
4位 東京都区部 1万829円

(※)都道府県庁所在地・政令指定都市別の「1世帯当たりの喫茶代年間支出額」データ(2022年・総務省統計局「家計調査」)

筆者は『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社、2009年刊)を上梓して以来、同調査を定点観測してきたが、このところ岐阜市が3年連続で首位。近年は名古屋市を上回っている。かつては8000円台が多かった東京都区部や上位に来ることがなかったさいたま市が1万円を超えてきた――という状況だ。

なお、「モーニングサービスで町おこし」を掲げる地域に、愛知県一宮市がある。人口は約38万人、名古屋市と岐阜市の間に位置し、岐阜市と並んで毛織物で栄えた都市だ。

名古屋人は「おトク」「オマケ」が大好き。「ケチ」といわれる県民性だが、分量も含めて飲食に関してケチるとお客に見放されるのだ。筆者も大学入学前まで当地で暮らしたので、そのDNAは組み込まれている。

スガキヤと喫茶モーニングに共通するのは、「これだけ飲食して安い」というおトク感だろう。

2019年、筆者撮影
名古屋発祥「コメダ珈琲店」のモーニング。モーニング文化とスガキヤの店舗展開はリンクしている

首都圏再進出へのハードル

以前に比べて、地域性による味の違いが薄れたとはいえ、全国展開するラーメンチェーン店は少ない。首都圏で強い「熱烈中華食堂 日高屋」は関東地方に集中し、「幸楽苑」も東日本中心だ。これは食文化の違い以外に、物流コストがある。“ポツンと離れた1軒店”だと食材供給などで採算性が合わないのだ。

数少ない例が「スガキヤ」と同じ愛知県発祥の「丸源ラーメン」(物語コーポレーション)。全国の店舗数は200店未満だが、2022年12月に札幌市内に出店し、北海道から沖縄県まで全国展開を果たした。同社が「焼肉きんぐ」を運営しており、場所によっては「丸源ラーメン」「焼肉きんぐ」の店が隣接するのも特徴だ。

さて、「スガキヤ」が首都圏から撤退したのが2006年(最後の店は「高田馬場店」)。今後再進出する予定はあるのだろうか。

「スガキヤとして首都圏をあきらめた訳ではありません。より多くのお客様にスガキヤのラーメンをお召し上がりいただきたいので、努力をしていきます」(同社)

という答えだった。スガキヤのラーメン1杯390円は、普段使いの外食代表といえる価格帯。名古屋地区の商業施設では「東海初出店」といった高感度店が人気を呼んでも、やがて「スガキヤに戻ってくる」とも言われる。

モーニング文化が首都圏で浸透し、前述のさいたま市や東京都区部の喫茶支出代が増えたように、消費者意識が変わる例もある。解決すべき課題は多いだろうが、「再び箱根の山を越えるのを期待したい」という声も聞く。

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