優秀な兄と違って勉強ができず、親から顧みられない不幸

毎日、特に何かしたいこともなく、小学校には休まず通っていますが、勉強もスポーツもパッとせず、仲のよい友達がいるでもなく、家に帰れば家事と妹の世話をする日々です。この前、学校の作文で「将来の夢」というのがありましたが、タケシは原稿用紙に何も書くことができませんでした。気づくと真っ白の原稿用紙を前に涙ぐんでいました。

<解説>

タケシは勉強もスポーツも得意ではありませんが、家事をこなし、妹の面倒も見ています。引っ込み思案なため、今のところ友達と呼べる相手ができずにいますが、攻撃的なところもなく、協調性もある優しい、普通の子です。そんなタケシが「将来の夢」を書けずに、涙ぐんでしまいました。

タケシは何がつらいのでしょうか。将来の夢がないことでしょうか。でも、タケシの年齢ならまだまだ自分の将来について現実的に考えられないという子どものほうが普通でしょう。

むしろタケシの場合は、自分の「好き」を将来に投影しようとしたときに、現実的な選択肢が何もないことや、その理由として、自分の願いや「好き」が親によって叶えられたことが一度もないことに、寂しさや悲しみを覚えたのではないでしょうか。あるいは、常日頃から感じていた寂しさや悲しみが、改めて押し寄せたのかもしれません。

タケシは身近な大人から、あまり関心をもたれずに育ちました。挑戦してみたいことも、させてもらえませんでした。家事や妹の面倒を見させられてきたので、放課後や週末に児童館や公園で遊ぶこともできませんでした。タケシに関心を寄せる大人や同世代とのコミュニケーションが限定的であったため、タケシの現在や未来について積極的なフィードバックをくれる人がいなかったのです。タケシは進むことも戻ることもできず、心にポッカリ大きな穴を抱えていました。

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「親が自分に投資してくれない」というハズレガチャ

もし、タケシの生活環境が違っていたら、どうだったでしょうか。放課後自由に遊べていれば、塾に行かせてもらえていれば、リトルリーグに入らせてもらえていれば、自分は大切にされているという自信や安心感が芽生え、引っ込み思案のタケシでも、仲間や友達ができたかもしれません。

勉強やスポーツの成績がアップしていたかは分かりませんが、少なくとも「将来の夢」に「プロ野球選手」と書いたかもしれません。自分の願いや「好き」を認め、そのために少しでも自分のために時間やお金を割いてくれる親に恵まれなかったことが、タケシにとってのハズレガチャだったと言えます。