「売りたい」ではなく「自分が使いたい」
別の社員が「分かりました。デザインとあわせてもう少し具体的に掘り下げて、また提案させていただきます」と引き取ろうとしたところで、大山社長は「いや、たぶん分かってないと思うよ」と言い切る。
そして「何をお客さんに提案するのかっていうところを、もう少し事業部で考えないと、いかんわ。コンセプトがまだ定まってないよ」と続ける。社員が「もう一度、考え直します」と答えると大山社長は「商品としてはやりますが、コンセプトはもっと練り直してください」と条件付きの承認で締めくくった。
会議後に大山社長は社員とのやり取りについて「今回はちょっと厳しい話をしたが、顧客イメージが、ちょっとぼんやりしていた。さらに、どちらかと言うと『売りたい』という意識が強かった。使ったらどういう便利な機能があるのかを語り『自分が使いたい』という気持ちを持っていないように感じた」と背景を説明した。
そして条件付きの承認としたことについて「担当者が『この商品は、こんなことができます』という開発目線だった。『こういうことができるから、この商品を私は買いたいです。だから作りたいです』という目線が無かったことが気になった。突っ込んだ議論をすると、まだまだ弱いなと感じた」と理由を明かした。
社長が直接「駄目出し」する効果
会議で指摘を受けた社員は「口では消費者目線と言っていたが、そうなれていなかった。他社の競合品などを見て、スペックや価格に目が行ってしまっていた。もう一歩踏み込んだ消費者目線の提案ができていれば通ったのではないかと思う」と反省していた。
社長が社員に直接「駄目出し」をすることで、経営陣と同じような意識を持てるように人材を育てることがアイリスの流儀だ。
社員の立場で考えれば、社長をはじめとする多くの幹部の前で自身のアイデアをプレゼンすることは大きなプレッシャーだ。しかも同僚が見ている前で厳しい指摘を受ければショックも受ける。それでも「合格」するまで、あきらめずに再提案することが自身の成長にもつながる。