井上さんは、地元の衰退を見たくないことが使命感につながっている。

「僕は単純に、あの頃の大須に戻りたくない。バブル崩壊後、自分の両親の商売が立ち行かなくなっているところを見ているわけですよ。その時に戻りたくないので、必死こいて人集めをやっている。やっぱり街がにぎやかな方が楽しいし、皆で一緒に活動するのは達成感を得られます」

この思いは地元の人以外にも確実に伝播している。テナントに入居する外部から来たオーナーや店主でも、商店街の活動に興味を持ち、積極的に参加する人が数十人といるそうだ。

これはイベントのボランティアも同様である。市外だけでなく、県外から駆けつける人もいる。井上さんによると、東京在住で毎回ボランティアに参加する人もいるそうだ。

立場は異なっても、大須商店街に対する帰属意識があるからこそ生まれる行動だろう。そこには損得勘定はない。

写真提供=大須商店街連盟
頻繁にイベントが開かれるふれあい広場も、かつては子どもたちの野球場だった

なぜ日本の商店街は「シャッター街」ばかりなのか

かつては地域の「顔」として存在感を放っていた商店街が、いまや日本中で風前の灯火となっている。いわゆる「シャッター商店街」は年々増加していて、人が寄り付かずにゴーストタウン化しているところも多い。

全国の商店街を対象にした中小企業庁の実態調査によると、一商店街あたりの平均空き店舗率は、2006年度は8.98%だったのに対し、21年度は13.59%にまで上昇。また、空き店舗率が10%以上の商店街は全体の43.3%と、こちらも増加傾向にある。中小企業庁では空き店舗率10%以上の商店街をシャッター商店街と定義しているため、実に全国の4割以上がそれに該当する。

後継者不足や人口減少などの影響で、今後ますます商店街の衰退が加速するのは自明の理だ。それはすなわち、地域の活力の喪失につながる。そうした状況と対照的なのが、大須商店街である。

なぜ日本の商店街はシャッター街ばかりになってしまったのか。堀田さんは、何よりも外部から人を取り込むべきで、特に若い力が必要だと訴える。

「結局、一人だとできないですよ。商店街を立て直すには、人材確保から始めないと。特に若い人。シャッター商店街は、極端な話、家賃タダでもいいから貸した方がいい。既存の、僕のような年寄りが何かしようと思っても無理だと思う。チャレンジショップでもいいから、若い人に入ってもらって、そこから人材を集めていかないと難しいかな」