「帰宅困難者」も「閉じ込め」も想定されていない

――昨年、韓国ソウルの梨泰院で群衆雪崩が発生する事故も起きましたね。

武村雅之『関東大震災がつくった東京』(中央公論新社)

そう。人間が必要以上に集まったら、思いもしない事態に陥る。人口が集中する東京ならなおさらです。

さらに超高層ビルの林立は、無数のエレベーターの存在を意味します。大地震が発生すれば、たくさんの人たちがエレベーターに閉じ込められるでしょう。狭いなかに長時間閉じ込められたら、命を落とすリスクもある。交通もマヒするから、救急車が到着しないかもしれない。

高層ビルは地震での倒壊確率が0と仮定されているだけで、大量の帰宅困難者やエレベーター内の閉じ込めの危険性は考えられていません。

月島は3年2カ月にわたって孤立した

また豊洲や有明、晴海や月島などの湾岸地区の埋め立て地にも次々とタワーマンションが建っています。

写真=iStock.com/Korekore
※写真はイメージです

地震が発生すれば、エレベーターが使えないから高層階に暮らす人は避難もできない。仮に避難できたとしても、過度に人口が密集しているために、避難所が足りない。埋め立て地は液状化が発生すれば、水道などのインフラも断絶する恐れもある。

なかでも月島は、関東大震災で焼失した相生橋が再建されるまで3年2カ月もの間、孤立を余儀なくされました。月島のタワーマンションに暮らす人たちはその事実を知っているのかと心配になります。

10万人以上が命を落とした関東大震災から今年9月1日で100年を迎えます。100年前、東京でどんな被害があり、市民がどのような思いで復興してくれたのか。近年、危険性がさかんに叫ばれる首都直下地震にどう備えるかはもちろん、現在の東京が100年後を見据えた街になっているのか――そのヒントが100年前にあるのです。

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