「机上の空論」都知事が握りつぶしてしまった

しかし石川栄耀の「東京戦災復興計画」は実現しなかった。

都知事の安井誠一郎が「東京戦災計画」を机上の空論だとして、握りつぶしてしまったからです。

安井誠一郎は、関東大震災と戦災では事情が異なり、都市計画よりも都民の衣食住を優先すべきと考えた。その結果、当初の計画では約2万ヘクタールあった区画整理対象エリアで、実現したのはわずか6%。またGHQの農地改革で公園用地が農地と見なされ、私有地とされました。その上、政教分離政策で、もともと公園とされていた寺社などの土地の私有地化も進んでしまう。

一方で名古屋や仙台なども空襲の被害を受けましたが、行政のトップも都市計画の専門家も議会も同じ方向を向いて、戦後復興に向かった。とくに名古屋市は戦後復興の優等生と言われるが、目先の食糧難より将来の名古屋市民のためにと復興計画を推し進めた。

東京オリンピックが東京を改悪した

――終戦から78年間、東京をつくりなおす機会はなかったのでしょうか。

GHQによる占領が終わり、朝鮮戦争特需がはじまり、高度経済成長に移行しても東京の都市整備は進みませんでした。

人口の密集や都市部の交通マヒの解消は喫緊の課題でした。安井誠一郎は、戦後復興の失敗で顕在化した東京の問題を一気に解決できる起死回生の政策を打った。それが、1964年の東京オリンピック誘致です。しかし東京オリンピックに乗じた開発も東京に新たな問題を残すことになってしまいます。

オリンピック五輪
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イベント便乗型の開発は財源の確保には適していますが、弊害が少なくありません。

まずその計画がイベントの内容や開催に左右される。イベント便乗型ではほとんどの場合、短期間で、しかも決まった費用で事業を進めなければなりません。長期的なビジョンに立った計画がどうしても難しい。未来に禍根を残してしまうことが多いのです。