「テレビを見ながら食べたり、なにげなく口に運んでいるのでは、微妙な味の違いには意識がいきません。もしかしたら、いま何を食べているのかもわかっていないのかもしれませんね」と杉山さん。

 同社の教室では、甘味、酸味、塩味、苦味の基本4味にどんな食材があてはまるか考える、食感や匂い・温度などにも注意させて五感で味わうなどのプログラムもある。参加者のアンケートでは、「食(料理)に興味を持つようになった」「味や匂いに関する発言が増えた」という声がよく聞かれるという。

 都内に住む川村勝重さんは、長女が小学4年生のときに同社の味覚教室に通わせた。長女はもともと料理に興味を持っていたが、味覚教育を受けてちょっとした変化があったという。

 「見えない素材にとても興味を持つようになりました。『これは何をつかってあるの』とよく言うようになって、たとえばハンバーグの日にも、『どんなスパイスが入っているの?』『バターの香りがするね』と言ったり。煮付けを食べたときも『とろっと甘いのは何でだろう』って。仕上げにバターを使ったことや、みりんで照りを出したことを母親が説明していました。『お肉も焼き具合で香ばしさが変わるね』とか『ポンカンは温州ミカンより香りが強いね』とか、感じた味をきちんと表現するようになりましたね」

 味覚の教室、どうやら効果は大きそうだ。杉山さんに家庭の食卓での会話を弾ませるコツを聞いてみた。

 「『おいしいね』だけでなく、どんな食材を使っているかとか、どんな加熱の仕方をしているかを話題にしてみるのです。たとえば、『今日は蒸しているから、ホクホク軟らかいね』とか、『揚げるとこんがりして表面はサクサク、中の風味も変わるんだな』とかボキャブラリーも広がり、味覚への理解も深まります。また、『ホクホク』『ぷりぷり』といった食感や風味を楽しむには、できたての料理を家族が集まって食べることも大事です」