歯ごたえ、ゆで加減。食のこだわりが味覚表現を生んだ

 味について親子で語ることが大事なのはわかった。とはいえ、いきなり「豊かな食表現」を求められても荷が重いという人も多いだろう。そこで、食語(食の言葉)研究の第一人者を訪ねアドバイスをもらうことにしよう。

茨城県つくば市にある独立行政法人・食品総合研究所の早川文代先生は『食語のひととき』などの著書もある研究者。特に食品の官能評価に使う目的で、食感に関する日本語を収集、F整理している。

「日本語は他の言語に比べ、食感を表す言葉が多いと言えます」

早川先生が食品の研究者へのアンケートや専門家へのインタビューを通じて収集した食感用語の数は445に上る。同様の研究は海外でもなされていてフランス語の食感用語は227語、中国語は144語、英語は77語だという。食感用語は日本語が圧倒的に多いのだ。

その理由を早川先生はこう推察する。

「最大の理由はオノマトペ(擬音語、擬態語)の豊かさ。日本人は擬音語や擬態語で言い表すのが大好きです」

『サクサクのとんかつの衣をかむとジュワッと肉汁が広がる』などと表現するといかにもおいしそうだ。『ホクホクの焼きいも』『ポクポクの焼きいも』などという、あたたかい焼きいもの微妙な硬さの違いを表現できる言葉もある。

「オノマトペは表現としては稚拙なようにも感じますが、直感的に相手に味や食感が伝わる便利なもので、時代に合わせて新しい表現も生まれています」

もう一つ、先生が味覚表現の多彩さの理由に挙げるのは、日本人の食文化へのこだわりだ。

「微妙な歯触りとか、ゆで加減とか、品種の違いとか、日本人は食感に対するこだわりも強い。また、日本人は生食を好む。素材をしっかり加熱して潰したり濾したりする文化だと食感はどんどん均一になりますが、生食文化では素材そのものの味わいを重視する傾向がある。縦に細長い日本列島は気候の変化もあり豊かな食材が手に入る。そのことも、食感表現がバラエティーに富む原因かもしれません」

たとえば、暑い夏には「みずみずしい」果物がおいしい。「みずみずしい」は漢字では「瑞々しい」「水水しい」と書くが、同じく水分が多い食表現の「水っぽい」とは全くニュアンスが異なる。水っぽいというときは水分が邪魔な場合が多い。みずみずしいという言葉の、汁たっぷりでおいしそうな印象とは違う。こういった微妙な表現の違いがあるのだ。