「主体的に考えて決める」ということができない

Gさんは、どんな仕事でもNOと言わず引き受けることが主体的なこと、と思っていました。年次が上がるに連れて、それが通用しなくなり、「あなたはどう思うか?」と問われることも増えてきましたが、しかし、Gさんは、まず「普通はどうなのか?」「他の人はどう感じるか?」ということを反射的に考えてしまいます。

本当の意味で自分の意見を言うこと、自分で何かを決めることもとても苦手で時間がかかります。

他者は、我慢するべきところと、主張するべきところ、NOと言うべきところを自身の価値観や感情(体感)で判断しているようなのですが、Gさんにはそれがわかりません。ついつい引き受けなくても良い仕事や責任を引き受けてしまいます。

ここまでご紹介したそれぞれのケースについてご覧になられていかがでしたでしょうか? ご自身にも似たところがある、と思われた方もいらっしゃれば、自分には当てはまらないけど、職場には、親族には同じような方がいる、と思ったかもしれません。

「感情がわからない」とは特異なことでは決してなく、実は今回ご紹介したケースのように、職場や家庭など日常で接している事象です。

写真=iStock.com/hikastock
※写真はイメージです

安心安全感の欠如こそがトラウマの恐ろしさ

ここまで紹介したケースの多くに共通するのは、「ハラスメント」の影響です。ハラスメントは、ストレス障害と並び、トラウマの原因、特徴の一つです。

ハラスメントとは、矛盾するメッセージを受け続けて、心理的に支配、混乱されたりすることをいいます。不全感でしかないものをルールだとしてのみ込まされるために、歪な世界観やルールに沿って努力することや、自然な感情を抑圧したり、現実を回避したりすることが規範となってしまうのです。

感情とは、健全な他者との関わりと、特に自分を安全にさらけ出せる環境の中で育まれるものです。しかし、発達の過程で慢性的なストレスやハラスメントを被ると、まるで「解けない連立方程式」を解かされているかのように、他者の不全感への忖度、押し付けられた規範と自分の考え、感情を整合させることが必要になります。さらに、自己否定感や「世界が安心安全ではない」という不安感から、自分の考えや感情をタイムリーに感じられず、表現することができなくなるのです。