「ニセ成熟」した大人は自分の感情がコントロールできない

冒頭のPさんは、まさに機能不全家庭の中で、早くから大人の代わりをして、ちゃんとしていなければならず、自分の自我、わがままを表に出すことができませんでした。こうした状態を「ニセ成熟」といいます。その不全感が他者への怒りというかたちで現れています。そのため、他者の状態に合わせるようにしか感情を形にしてきていないため、自分の感情というものがよくわからなくなっています。

Yさんは、まさに、トラウマ体験を回避する方略でサバイバルしてきたために、自分の感情がわからなくなったケースです。他者と親密になることは、傷つくリスクも内包しますが、踏み込んでいくことが求められます。そのためには関係が安心安全だとの感覚が必須となります。

Yさんにとっては、物事にコミットすることで傷ついてきた経験が多いために、なんとか回避しながら「こなす」ことで対応してきたのです。回避できるか? 傷つかないか? を連立方程式として「好き」という感情を捉えようとしますから、好きを感じようとすればするほどぼやけてしまいます。

Gさんも「頑張らなければ愛されない(素直でなければ愛さない)」という家族の歪さの中で育ったために、NOといわずに無理を引き受けることが当たり前となっていました。自分の感情は抑圧することで、理不尽さをのみ込んできました。大学卒業までは単線的な進路のため、頑張りが通じてきましたが、社会に出て無数の選択肢があり、ほんとうの意味で主体性が問われてくるようになると通用しなくなってきました。頭だけではなく感覚・感情の土台がないと主体的な判断はできないことがわかります。

トラウマによる症状が別の病気と誤解されてしまう怖さ

従来は、こうしたケースについては、別の病気、概念で見立てられることがありました。

回避が強い場合、感情的なコントロールがうまく行かないケースでは「パーソナリティ障害」や「発達障害」など。体調が悪化して働けなくなると「うつ病」などといった診断がくだされていました。

そして、トラウマを負うと、社会適応や対人関係がうまくいかなくなり、仕事もできなくなります。そんなケースでは、「発達障害」と診断されるなんてこともあります。公式な診断名ではありませんが、HSP=ハイリー・センシティブ・パーソンという概念も流行しています。

背景にあるものが理解されず、職場で悪く評価される、間違って診断されることも当事者を追い詰めます。

それらは表面的な症状に基づく診断で、実際の原因とは異なるため、適切な解決策にもつながりにくくなります。

ビジネスマンに深く頭を下げる女性
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