ジュトコフ氏はその理由について、次のように分析している。「(ワグネルの)多くは囚人ですね? だから、戦闘を行うか牢屋に戻るかの2択だと分かっているんです。けれどロシア兵たちには、動機がない。なぜここで戦っているのか、理由が見つからない。だから恐怖を感じると、ひたすら逃げるんです」

「ロシア軍が自軍の戦闘機を撃墜させた」とほのめかす

プリゴジン氏の立場からすれば、激戦の末に勝ち取った陣を、いともたやすくロシア軍に放棄される。氏の不満は、このような不甲斐なさから蓄積しているようだ。腹に据えかねた氏は、繰り返しロシア軍の混乱ぶりをあげつらっている。5月上旬には、ロシア軍が自軍の軍用機を撃墜したと示唆する発言をネット上で行った。

氏が揶揄するのは、空軍が1日で4機を失った一件だ。軍事・防衛情報サイトの米タスク&パーパスは、5月13日がロシア軍にとって「最悪の一日」になったと振り返る。ウクライナ国境付近にて同日、Su-34戦闘爆撃機1機、Su-35戦闘機1機、そしてMi-8輸送ヘリコプター2機が墜落し、1日で4機を失う惨事となった。うちSu-34は、落下中に炎上する様子が動画に撮影されている。

ロサンゼルス・タイムズ紙によると、ロシアが自軍機を誤って撃墜したとの見方が出ているようだ。ウクライナ空軍のユリイ・イナト報道官は、ウクライナの関与を否定し、ロシアが自軍を攻撃したとの見方を一時示した。

報道官は冗談のつもりだったとして、のちに発言を撤回している。だが、これに同調したのがプリゴジン氏だ。同紙によると、メッセージアプリのTelegram上でプリゴジン氏は、「4機の航空機……その墜落現場の上に円を描けば、直径40km以内に正確に収まる。その円の中心にどんな防衛兵器が位置するのか、みなさん自身でインターネットで調べてみてください」と発言。ロシア自身が配備する防空システムに撃墜されたと示唆した。

ロシア人がロシア人を撃ち殺す異常事態

プリゴジン氏とロシア軍は、もはや対立を隠し立てすらしていないかのようだ。こうした亀裂が高じ、ついに両陣営に死者を生じた可能性も出てきた。

ウクライナ・バフムートの制圧を主張するワグネルのエフゲニー・プリゴジン(写真=Yevgeny Prigozhin/Wikimedia Commons

軍事情報を報じるタスク&パーパスは5月上旬、ウクライナ政府発表の情報として、ワグネルの一部傭兵たちがロシア軍と交戦していると報じた。ウクライナ東部のルハンスク州でワグネルとロシア軍のあいだに諍いが発生し、本格的な銃撃戦に発展したという。ウクライナ政府は、複数の死者が発生したとしている。

ウクライナ軍参謀本部が4月23日に発表した内容によると、両陣営は互いに敗退の責任を転嫁し合い、戦術的誤算と人的損失の原因を相手になすりつけ合っていたという。これが銃撃戦に発展したとしている。