同記事は本件について、「前例のない公の脅し」であったと報じている。プリゴジン氏は「弾薬がなければ無意味な死を生じるため、ワグネルの部隊をバフムートから撤退させる」と公言していた。

タスク&パーパスによると、弾薬の供給を絶たれたプリゴジン氏は激高。プーチン氏やショイグ国防相の名指しこそ避けたものの、ロシアの「意志決定者たち」はワグネルに弾薬を与えないことで、国家への「反逆行為」を行っていると強く非難した。

一方で、冒頭で触れたロシア軍の位置を明かすという取引は、それこそが国家への反逆となりかねない。ワシントン・ポスト紙は、プーチン氏がプリゴジン氏のウクライナへの提案を「反逆的な裏切り行為」とみなすことは十分に考えられると指摘している。紛争の重責を担うロシアのトップたちが、互いを国家への反逆者だと糾弾し合っている状態だ。

赤の広場にある聖ワシリー大聖堂
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米シンクタンク「内部分裂の黒幕はプーチン」

このような足の引っ張り合いは、そもそもプーチン氏が招いた事態だとの指摘がある。インサイダーは「プーチンは、派閥同士が争うよう仕向けることがある」と指摘する。

米シンクタンクの戦争研究所でロシア軍を研究するカテリーナ・ステパネンコ氏は、同記事の中で、「プーチンは、一度に1つの派閥にしか関心を向けないという、極めて有害な環境を設けている」と述べている。「チームを入れ替えることで、2つの派閥を互いに競争させる」のだという。

ワグネルとロシア軍に関しても「間違いなくこの2つの派閥を互いに対立させている」とステパネンコ氏は指摘する。氏は、バフムートで国防省がワグネルへの弾薬供給を停止したのも、プーチン氏の指示であったとの見方を示した。プーチンが「間違いなく、2人を操る黒幕である」のだという。

ロイターはバフムートの戦いについて、ロシアがドンバス地方の他都市に侵攻する足がかりになると考える要衝であり、数カ月におよぶ激しい戦いの末に両軍計数千人の命が奪われたと報じている。このような重要な戦闘にもかかわらずプーチン氏は、ワグネルとロシア軍が共闘して要衝をいち早く攻略することよりも、配下の派閥のバランス取りに心血を注いでいるようだ。