プーチンが「連敗続きのロシア軍」に肩入れする事情
米シンクタンクが「黒幕」と指摘するプーチン氏の下で、本来目的を共有しているはずの2つの派閥が互いに争い合い、ことによっては互いの陣営に銃口を向け合っている。ロシア軍内部の連携の悪さはずいぶんと以前から指摘されてきたが、軍とワグネルの傭兵部隊とのあいだでも泥沼の妨害工作が起きているようだ。
敗退続きのロシア軍に非難が集中するなか、プーチン氏は同軍の大部分を統括するショイグ氏に肩入れするという不思議な動きをしている。そのねらいは、実力をもとに増長するプリゴジン氏の勢いを抑制することにあるのかもしれない。
しかし、そもそも友軍同士を戦わせる構図は、戦場でロシア全体にとって不利を生んでいる。加えてショイグ氏の重用により、ロシア軍を強力に補佐するはずだったワグネルのトップを怒らせる展開を招いた。
こうして不満を抱えたプリゴジン氏は、侵攻中止論をぶち上げ、ロシアトップへの不満を公然と口にする傍若無人な振る舞いを重ねている。あまつさえ、ロシア兵の居場所を明かし、自らの傭兵部隊が助かろうとする始末だ。
対立を煽り、権力を守りたいプーチンの狙いが透けて見える
ところがプーチン氏としては、やりたい放題のプリゴジン氏を冷遇できないジレンマがある。プリゴジン氏は、ロシア国内に根強く残る国家主義者からの信望が厚い。プーチン氏はかねて、ウクライナ侵攻の口実として国家としての正義を謳ってきた。プリゴジン氏をお払い箱にすれば、こうした熱烈な国家主義者らの反感がプーチン氏に向かうが、これは避けたい事態だ。
また、前回の動員令で国民から不信を買ったことからも、否が応でもワグネルへの依存は当面続くとみられる。
意図的に2つの勢力を対立させることで権力を誇示するプーチン氏だが、現実的にはワグネルの戦闘能力にしがみつかざるを得ない。プリゴジン氏がロシア軍の配備位置を漏らそうとも、軍部を公然と批判しようとも、その暴走を止められない――。そんな苦しい立場に置かれているようだ。