記事は流出した機密文書をもとに、プリゴジン氏がウクライナ防衛省の情報局(HUR)に対し、ロシア軍の展開地点の情報を提供すると持ちかけたと報じている。氏は、布陣に関するこの情報をもとに、ウクライナはロシア軍を攻撃できるとまで明言していたという。
2人のウクライナ当局者は同紙に対し、プリゴジン氏がHURと繰り返し接触し、このような提案を複数回持ちかけていたと証言している。ウクライナ側は、プリゴジン氏が信頼に足る情報を提供しないおそれがあると判断し、交渉を拒んだという。
ワシントン・ポスト紙はまた、流出した別の機密文書をもとに、プリゴジン氏がウクライナ軍に対してロシア軍への攻撃をけしかけたとも伝えている。ロシア軍が弾薬の補給に手間取っている事実をウクライナ側に明かしたうえ、ロシア兵らの士気が低いうちにクリミア国境付近での攻撃を加速するようウクライナ軍に助言したという。
ロシア軍よりも高い戦闘意欲を維持しているとされるワグネルだが、流出文書は別の側面を物語る。激戦地・バフムートへの出陣を躊躇する戦闘員も多く、部隊の士気は顕著に落ちていた模様だ。疲弊する自社の傭兵部隊を護るべく、プリゴジン氏はロシア兵の情報を突き出したという経緯のようだ。
傭兵集団が抱える「ロシア正規軍」への不満
ロシア軍に対するプリゴジン氏の不満は、これまでにも鬱積していた。ロサンゼルス・タイムズ紙は、「プリゴジンと軍上層部の険悪な関係は、2014年のワグネル創設にさかのぼる」と指摘する。ウクライナ戦争においても折に触れ、プリゴジン氏がロシア軍の無能さを揶揄してきたと同紙は述べる。
今年5月には、進軍するワグネルの側方を固めるべきロシア軍に対し、その役目を果たしていないと非難していた。ワグネル本隊を護衛するはずが、「数十人か、ごくまれに数百人」ほどの兵士しか現れず、「かろうじて形成を維持している」状態だったという。こうしたロシア軍の弱体ぶりに、プリゴジン氏は常々苛立ちを募らせているようだ。
英タイムズ紙は、バフムートの前線で活動するウクライナ軍の将校の証言をもとに、ワグネルとロシア正規軍には明確な能力の違いがあると指摘している。
ウクライナ軍の大隊で諜報活動を取り仕切るジュトコフ氏は同誌に対し、猛襲を重ねたワグネルの部隊からロシア軍に入れ替わった途端、ウクライナ軍としては戦闘が相当にやりやすくなったと述べている。
「ワグネルが去ってロシア正規軍に交代した途端、彼らは陣地を放棄したのです。これがもしワグネルの戦闘員であれば、最後の最後まで陣を護ります」