5月11日付日経新聞1面に掲載された「ECB総裁、物価『著しい上振れリスク』利上げ継続示唆」では「ラガルド総裁は賃上げが物価をさらに押し上げるリスクに言及し、『警戒を怠らないようにすべきだ』と述べた」とある。

日本政府のように賃上げを推奨するのではなく逆に警戒している。賃上げ率が物価上昇に追い付かないままだと、賃上げが実質賃金を下押しするループになってしまう。国民の幸せは実質賃金の上昇であり、名目賃金の上昇ではない。

政府はインフレという火に油を注ぎ、実質賃金を低下させるのではと心配になる。

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インフレを甘く見てはいけない

デフレ時代に生きてきた若い人たちにはわからないかもしれないが、インフレは、デフレよりはるかに怖い。

1990年代後半に「インフレ政策が必要」(藤巻がそんな原稿を書いたのかと驚かれる方もいらっしゃるかもしれないが)との原稿を書いたことがある。その時、ある新聞社の編集者から「そんなことを書いたら国賊になってしまいますよ。せめて『デフレ脱却を』とのタイトルに換えましょうよ」と言われたことがある。当時はそれほどに「インフレ」は忌み嫌われ、恐怖されていたのだ。

4月22日付日経新聞夕刊「インフレで消費どう変化? 低価格帯商品にシフトも(ニッキィの大疑問)」のなかで「ちょっとウンチク」というコーナーがあった。そこにこんなことが書かれてあった。

日本人でノーベル経済学賞に近い学者として知られた宇沢弘文氏は「インフレと大気汚染ほど怖いものはない」と語ったことがあります。物価上昇率が跳ね上がった国では「生活苦から社会不安を招き、暴動などが起きやすい」とも言っています。物価上昇も大気汚染も貧富に関係なく襲い、国民全体に不満がくすぶりやすいからです。

まさにその通りだ。宇沢氏の指摘はデフレに慣れ切った日本人が改めて認識するべきだろう。

異次元緩和を続ける必要はあるのか

このような状況においてさえ、植田総裁は、金融緩和を継続するとしばしば述べている。「中立な政策を継続する」とか「デフレに戻るのを警戒し、多少の緩和姿勢を維持する」ならば、まだわかる。しかし、今現在、日銀は史上最強の超ド級の緩和政策を継続している。それどころか日々その緩和を加速させている。

金利は史上最低のゼロ%。日銀バランスシートは1992年末の48兆円から今や700兆円を超え、約14倍に膨らんでいる。日銀バランスシートの負債の大方はお金(発行銀行券+日銀当座預金)だから、お金を無茶苦茶にばらまいているということだ。それを、さらに日々、膨れ上がらせている。もちろん歴史上、こんな超ド級の強力な緩和政策を実施したことはない。