事件前日の悪い予感。電話で安倍さんに話したこと

その後の安倍さんは、近い将来、台湾情勢などを含めて国際情勢が緊迫化するだろうと考えていたようで、「もしまた天が私を必要とする時がくるとしたら、その時は、国のために尽くしたい」と口にし始めていました。

そして、2022年7月7日の夜。この日、安倍さんから、二度、電話がありました。

「明日は選挙応援の予定が急遽変更になり、奈良に行くことになっちゃったんだよ」とぼやいていました。

私は、ちょうど数日前、第1次安倍内閣で秘書官を務め、参議院議員となった井上義行さんが旧統一教会で祝福を受けたという情報を得ていたため、その件を切り出しました。すると安倍さんは、それを認めたうえで、抑え目の声で、「大丈夫だから、その件は」と、あまり話したがらない様子でした。

撮影=遠藤素子

苦悩の中で、自問自答を繰り返している

私はピンとこなかったのですが、すぐに大学時代の「原理研」を思い出しました。そして論理に飛躍を感じながらも、「第1次内閣、第2次内閣で二度も退陣を経験し、つらい思いをした人たちやさまざまなことへの影響は大きかった。リスクと思われることは、回避すべきだ」と感情に任せてまくしたててしまいました。「そんなことあるわけないでしょう、また明日ね」と言われて電話は終わりました。

しかし、そのわずか12時間後、安倍さんは選挙演説中に凶弾に倒れ、非業の死を遂げてしまった――。テロを許してはいけないし、テロリストと交渉をしてはならない、というのが世界の常識です。そして安倍さん本人もこのような最期に納得していないでしょう。私自身、取材が足りなかったのではないか、あのような悲劇が起きる前に、ジャーナリストとしてやるべきことがあったのではないか。苦悩の中で、自問自答を繰り返しています。

(聞き手・構成=ジャーナリスト・宮原健太)
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