ハードな練習をしたのにけが人は半減

池田の手元にあるジェフ時代のデータを見ると、2003年に17人、04年に22人と肉離れを起こす選手が増えていった。オシムは上手く選手を回していたのでそんなに目立たなかったのは、若い選手を軸にした布陣だったからだ。その陰で、ベテラン選手がどんどん壊れていった。それでも、オシムは手綱を緩めない。

「(練習の)やり過ぎなどではない。とにかくトレーニングしなくちゃいけないんだ」

その後、衝撃的なことが起きる。2005年、06年になると肉離れを起こす選手が半減していた。勇人も羽生も「あんなにハードに練習していたのに、けが人が少なかった」と記憶している。池田も当時は「なぜ減ったんだろう? 以前と同じように厳しい練習をしているのに?」と不思議でたまらなかった。

選手にそのころ施したメディカルチェックの結果を見ると、筋力に変わった様子はない。ただ、乳酸テストの結果が著しく向上していた。要するに、選手は乳酸がたまりにくい体に変化していた。これが肉離れなどけがの減った大きな要因だと考えられる。

特に、レギュラークラスで20代前半の若手選手は顕著だった。例えば豊富な運動量が持ち味の羽生などは毎年肉離れを起こしていた。羽生自身も「年に一度は(肉離れで)1カ月は離脱しなきゃならなくなることを、毎シーズン想定していた」と話している。

調子が良くなりすぎて肉離れを起こす選手も

ところが、2006年のけが人リストに、彼の名前はない。

「彼の乳酸テストの結果も急激に良くなっている。これがすべてとは言いませんが、ひとつの背景ではないかと思います」と池田は振り返る。乳酸がたまりにくければ当然筋持久力は増す。選手たちは負荷をかけ続けることで、縦横無尽に走れ、なおかつけがをしない体になっていた。

また、オシムは、練習後に自主トレをしたがる選手をこう言って諫めた。

「(居残りの)シュート練習も、筋トレもやらなくていい。俺のトレーニングに全部入っている」

写真=iStock.com/Koonsiri Boonnak
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つまり、自分が用意した練習をやれば体もつくれるというわけだ。このことについて、池田は「オシムさんが言ったことは本当だった。それがひとつの結果になって表れたんでしょうね」と唸った。

池田によると、肉離れを起こすのは「比較的コンディションがいいとき」だという。気分良く張り切って走っていたのに、突然太もも裏を押さえながら倒れ込む。選手から「今日は体がキレてたのに」とこぼすのを何度も聞かされた。

「体が動くからつい行き過ぎちゃうのかもしれません。本当はそこまでやらなくていいのにやってしまう。そういうときに起きるようです」