組織全体を俯瞰できるリーダーの存在が欠かせないが…

日本では、更にさかのぼること1933年に松下電器産業(現・パナソニック)が導入し、研究開発から生産販売までの収支を事業部別に見ることで責任を明確にした。歴史的に馴染みがある組織運用体制ということもあり、日本では高度成長期を経て94年のソニーに始まるカンパニー制のトレンドへ移っていく。

こういった事業領域ごとの縦割り組織には一定の合理性はあるが、個別最適や事業の重複を回避するためには組織を俯瞰ふかんでき、高い能力を備えたリーダーの存在が不可欠となる。GMにおけるアルフレッド・スローンや松下電器産業における松下幸之助のような存在である。京セラやKDDIを創業し、2010年1月に会社更生法の適用を申請して事実上倒産した日本航空(JAL)を約3年で再建した稲盛和夫氏をイメージする方も多いだろう。

更に、柔軟性やスピード感という点での課題もある。情報通信の進化、デジタルテクノロジーの革新、顧客ニーズの変化によって企業を取り巻く事業環境が目まぐるしく変わり、競争環境の構造的変化に従来型の縦割り組織では俊敏な対応が難しくなってくるからだ。

リーダーの育成や仕組みづくりが欠如しがち

例えば、小売業界でのオムニチャネル化が挙げられる。テクノロジーの進化によってオンライン・オフラインの境界を顧客が意識することなく購買の意思決定をするようになると、新しい顧客行動の変化(オフラインで商品を品定めしてからオンラインで購入する、またはその逆、というような行動)が起こる。それに伴って、店舗やEコマースでチャネルの役割が変化しているにもかかわらず、企業側は店舗やEコマース、コールセンターなどの組織が縦割りのままで、顧客データの共有にも障壁がある状態にある。それでは、顧客に最適なサービスを提供する、あるいは他社との競争に迅速に対応できないのは当たり前である。

事業環境の変化に合わせて柔軟かつ迅速に組織構造を変えられることが理想であり、事業領域別の縦割り組織であっても事業を俯瞰し、組織にまたがる顧客ニーズを的確に掴みながら縦横のコミュニケーションができるリーダーが存在すれば変革を主導できるはずだ。

写真=iStock.com/BrianAJackson

問題は、日本企業にはそのようなリーダーの育成が十分にできていない、あるいはそれを機能的に可能にする仕組みが欠如しがちであるということではないだろうか。