アメリカの放送局は「受信料なし」が普通

ここで、網島は、NHKの事業を継続するために、受信料を強制的に徴収することが必要だと説明している。その事業とは、もうかるともうからないとにかかわらず全国的に電波を出すということだ。

この発言を理解するためには、当時のコンテキストを理解する必要がある。彼のこの国会答弁はGHQによる占領が終わる2年前になされている。つまり、網島は、国会で承認を得る前にGHQのOKを取らなければならなかった。

GHQはNHKが受信料を取ることに反対していた。アメリカと同じにすれば、受信料は必要ないと思っていたからだ。アメリカの放送局は、広告を流し、寄付をもらい、地方自治体の交付金を受けて、受信料なしで放送している。

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また、NHKのように直営局によるネットワーク放送ではなく、ニューヨークにキー局があり、その番組を経営上は独立のローカル局が系列契約を結んで放送していた。この形ならば、それぞれのローカル局は収入に見合った規模で事業をしていけばいいので、受信者から強制的に料金を取る必要がない。現在、日本の民放もこのような形でネットワーク放送をしている。

強制徴収が必要だと主張する“大義名分”

GHQの考えにしたがえば、受信料を取る理由はない。そこで、NHKは受信料を強制的に取るための理由を探した。それが、網島のいうように「全国的に電波を出す」というものだ。

GHQのいうように、NHKの各県にある直営局をそれぞれ経営上独立のバラバラのローカル局にしたのでは、受信料は取る必要はない。各局が収入に見合った規模でやっていけばいいだけだからだ。だが、直営局のネットワークによって「あまねく全国に放送する」とすれば、組織が巨大になるので、受信料が維持費として必要になる。

そこで放送法の最初のバージョンにはなかった「あまねく全国に放送する」をNHKの目的として加えた。こうすれば、直営局を通じての全国放送を行うために、受信料は必要だと主張できると思ったのだろう。(詳しくは拙著『NHK受信料の研究』に譲る)

とはいうものの、網島のいっていることは、現状を追認してくれ、ということでもあった。戦前からNHKは直営局によってネットワーク放送し、その維持費として受信料を強制徴収していたからだ。要するに、網島はGHQの進めようとする、受信の自由化と無料化という改革(あるいはアメリカ化)に抵抗したのだともいえる。