今回の将来人口推計における、早期の出生率の回復見通しや外国人の大幅増は、本来の人口推計の結果ではなく、その仮定値の設定に基づいた結果である。これは2023年1月に公表された、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」との対比では、これまでの経済動向を不変とした「ベースラインケース」ではなく、望ましい政策運営が実現した結果としての「成長実現ケース」に近いものといえる。
本来の将来人口推計を、年金財政検証などの重要な政策決定の基礎として用いいる場合には、出生率に上方バイアスのかかった中位値よりも、より慎重な低位値を用いるべきであろう。岸田政権の異次元の少子化対策の効果を織り込んだものは、政策実現ケースとして、あくまでも参考資料として示すことが望ましいが、現実の公表の仕方はその逆に近い。あまりに希望観測的で甘いと言わざるをえない。
過去の人口推計から繰り返してきた出生率の自動的な回復の見通しは、それだけ将来の年金財政を改善させることになる。そうなれば、どういうことが起こるか。
「出生率回復」という見通しは政権のバイアスか
現政権にとって、年金支給開始年齢の引き上げは世論の大きな反発を呼ぶにちがいないが、年金改革にとっては必要不可欠なものである。「出生率回復」の見通しは政治的なもくろみとしてそれを避ける口実ともなりうる。
今後の急速な高齢化社会における年金財政検証には、より慎重な前提を用いる必要がある。そのためには、同じ厚生労働省の年金審議会が、従来のような出生率の中位値ではなく、より悲観的だが、むしろ実績値に近かった低位値を用いた人口推計を活用することが必要となろう。