注意や叱責をされて不機嫌になるのは損

また、普通の人なら不快になるようなことにも、感謝しなさいと諭した。

「各人それ〴〵長所もあれば短所もあるのだから、お互に忌憚きたんなき注意をし合ふは勿論、長上からの注意叱責しっせき等は感謝の念を以て享受せなければならない。この場合もややもすれば不愉快な態度を示す者があるが、さやうな人に対しては再び良い事も言へなくなるから、その人の向上は全く行き詰りである。修養の途上にある諸君は、須く長上、先輩の批判注意を愉快に受入れ、進歩向上の実とせられたい」(前掲書)

誰だって他人から注意されたり叱られたりするのは、うれしいはずはない。いくら上司であっても、強く叱責されたら、ついついふてくされた態度をとってしまう人もいるだろう。

けれど、そうなると上司はその人に対して注意を控えたり、その部下を信頼しないようになっていく。つまり、不機嫌になることは、回り回って自分の損になる。だから、他人の注意や叱責も感謝の念をもって素直に受け入れることが大事だというのだ。そうすれば、多くの者が親切で的確なアドバイスをくれるようになり、それがその人を進歩向上させることにつながるのだと考えた。

松下幸之助(写真=時事画報社『フォト』1961年8月15日号より/PD-Japan-organization/Wikimedia Commons

「採用担当者は感謝の念をもって面接しなさい」

さらに幸之助は、「人事採用の担当者は、感謝の念をもって採用面接を実施しなさい」と述べている。ちょっと意図が想像できないが、幸之助は次のように考えたのである。

「採用された者はもちろんだが、不採用になった者も、松下電器を志望したからには我が社に関心をもっているはず。つまり将来、彼らは松下電器の顧客になる人々だから、十分に良い印象を与えるようにしなくてはならない。そのためには、人事採用の担当者は面接のさい、感謝の念をもって応募者に接することが大切なのだ」

なんともユニークな発想だろう。

ただ、いま見てきたように、どんなことにも感謝の念をもつというのは、究極のプラス思考といえるのではなかろうか。