3.11以後の変化を追う

もう一つ、連載でとりあげる各テーマは、主に(必ず、ではありません)2011年以後の出版傾向の観察にもとづくものです。私がここで連載をさせていただくことになったのは、この3月に『自己啓発の時代 「自己」の文化社会学的探究』(勁草書房、2012)という本を刊行して、それが『PRESIDENT Online』の編集者の目に止まったことによります。

自己啓発の時代
  牧野智和著/勁草書房/2012年

同書は、自己啓発書や自己啓発に関連するメディアがどのような「自己」を求めているのか、その系譜と現状について社会学の立場から考えようとした本ですが、考察は2010年までのメディアを素材にしたものでした。しかし皆さんご存じの通り、2011年は日本に大きな変動が起こった一年でした。この変動を受けて、生き方論・働き方論の結晶物としての自己啓発書に何か変化が起こったのでしょうか、あるいは起こっていないのでしょうか。このことは私自身に残された課題となっています。そこでこの連載では、拙著で検討した2010年までの動向を踏まえつつ、2011年以後にどのような変化が起こり、そしてそこに今の世の中をどう読みこむことができるのか、考えていきたいと思います。

このような趣旨ですので、本連載では、どのような自己啓発書を読むべきだとか、今後のトレンドはこうだとか、これがデキる人の仕事の仕方だとかいうことがらは扱いません。また、この連載で扱う各テーマや、事例としてとりあげる書籍は、自己啓発書の送り手(著者、編集者から書店員まで)や熱心な読者からすれば、時に奇妙なチョイスだと思われるかもしれません。ですが、私は自己啓発書に「内側」から関わる人間ではなく、社会学という学問を学んできた人間として、その色眼鏡をもって「外側」から、自己啓発書に映し出された現代社会を読みこもうとしているわけです。そういう観点からのチョイスだということをご甘受いただければと思います。

そして本連載では、「この人の、この本がすごい!」というスタンスでは記述しません。むしろ、あるジャンルの自己啓発書において「有名な人が書こうが無名な人が書こうが、その内容が玉であろうが石であろうが、なぜか同じように言われていること、暗黙の前提とされていること」に注目し、そこから、自己啓発という営みが成り立っている社会的文脈を読み解こうというスタンスをとります。というように、本連載は色々と奇妙な趣をもつものだとご理解ください。

さて、前置きはこれくらいにしましょう。次週では初回のテーマについての現状と系譜をみていきたいと思います。

次週は《TOPIC-2 「自己啓発書ガイド」のガイド》です。

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