ピンチのときに敵が引き揚げていく家康の幸運

黒田基樹『徳川家康の最新研究』(朝日新書)

この武田軍の退陣、そして信玄の死去によって、家康はまさに窮地を脱することになった。信玄の病状が深刻化することなく、そのまま進軍を続けていたとしたら、残された領国をも経略されるなど、徳川家の存立そのものが危機におちいった可能性すらあった。

しかし家康は、その危機を乗り切った。しかもそれは信玄の病気という、家康にはどうしようもないことによった。ここに家康の、桶狭間の戦いの後、今川氏真に攻められたとき以来の強運をみることができる。家康はかろうじて、滅亡を覚悟せざるをえないほどの、信玄の脅威から解放されたのであった。

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