人生の支え

「先日、明け方に大きな地震があった時、息子のひとりから国際電話がかかってきた。『お母さん、日本は地震も多いし、津波も来るから、僕の国に来てくれ。日本はお母さんのことを大事にしていないよ』って(笑)。国名を聞いたらみなさんギョッとするような国の人が、こんなことを言ってくれるんです」

だから、この先何があっても、少なくとも飢えて死ぬことだけはないだろう。誰かが食事の世話ぐらいはしてくれるだろうと今野さんは言う。

撮影=市来朋久

こうした人との繋がり、人脈が、今野さんの最強のビジネスツールであると同時に、人生の支えにもなっている。

「日本は世界第2位、第3位の経済大国なんてことになったけれど、自分だけ、自分の家だけ豊かになればいいという気持ちを育て過ぎた。自分の家族が食べるものがないのに、わずかであっても町内の他の家に食糧を分けて置いてきた母には、私は、逆立ちしたってかなわないと思う。だって、いまの日本で飢えて死ぬということはまずないでしょう」

大切なのは、助け合える「友垣」を作ることだと今野さんは言う。経済よりも人との繋がりを大切にするマインドが当たり前ならば、子育ての風景も、働き方も、老後のありようも、ずいぶんと違ったものになるのかもしれない。

一流の正体見たり

最近、働く女性の間に出世を望まない人が増えているという。理由はさまざまだろうが、管理職や経営層になるメリットとデメリットを比較したら、デメリットの方が多いという判断をする人が増えてきたということかもしれない。

「あいかわらず、国も会社も男性が支配しているんだから、私としては、『もっとがんばれよー、なんでそんなに大人しくしているの』と言いたい。だって、上司だからといって、尊敬できる人物とは限らないでしょう。そんな男にかしずいて仕事をするの?『もっと本気を出せよー』と言いたいですね。何かを変えようと思ったら、あまりお利口さんにならない方がいいのよ」

いや、男社会の壁があまりにも厚く、それとの戦いから得られるものがあまりにも乏しく、しかもあまりにもエネルギーを消耗する戦いだからこそ、「お利口さん」になる道を選ぶ女性が増えているのではないのだろうか。

「私ね、ベンチャーをやってさんざん国からいじめられたのに、省庁の審議会の委員を50いくつもやらされたの。審議会ってわかる? ある分野に関する超一流の識者が集められて、その分野について議論をするのだけど、私はたくさんの超一流の人たちを見て、『あっ、正体を見た』と思ったし、『正体見たり!』と言いまくってきた。もちろん彼らにも、国のため、社会のため、人のために貢献しようという気持ちはあるのだろうけど、超一流のポジションを得るために、上の人の言うことに、従順に、素直に従ってきた人たちなんです。だから、私とは目指すものも、やってきたことも正反対。私は、黙れと言われても発言しちゃうしね(笑)」