年収860万円では40万円程度の納税が必要に

昨年の私の事業売り上げ(年収)は860万円。収入源は主に原稿料だ。 

これまで私のように売り上げが年間1000万円以下の小規模事業者は、消費税の納税を免除されてきた。支払う力がないとみなされ、支払い義務がなかったのだ。それが一転、今年10月からは「課税事業者」になるか、これまで通り「免税事業者」のままでいるかの選択を迫られている。

課税事業者になると、昨年度の年収860万円に対し、簡易課税を選択したとして40万円程度の消費税を納税しなければならない(緩和措置あり)。

インボイス制度実施に反対する声優有志チーム「VOICTION」は、免税事業者が課税事業者になった場合の収入に応じた消費税負担を試算している。それによれば、年収300万円で消費税13.6万円、500万円で22.7万円、800万円で36.3万円だ(VOICTION作成YouTube「インボイス制度で生活苦に⁈」より。各数字は概算)。当たり前だが、そのぶん手元に残るお金が減る。

しかし、こういった主張をすると、「(免税事業者は)これまで買い手から消費税を預かって、そのぶん利益を得てきたのだから、当然納税すべき」と指摘されることが多い。近年、「益税」(消費税の一部が免税事業者の手元に残ること)という言葉も出てきた。

撮影=今井一詞
インボイス制度実施に反対する声優有志チーム「VOICTION」共同代表の一人で、声優の咲野俊介さん

「益税という言葉は、消費税法上はどこにもない」

VOICTION共同代表の一人、声優の咲野俊介氏は「益税という言葉は、消費税法上はどこにもない」と説明する。

「消費税は預かり金じゃなく対価の一部と国が主張し、勝訴した判決があります。また同じお菓子を大型スーパーで買った時と個人商店で買った時に値段が違うことがよくありますよね。その場合、“店ごとに納税額が違う”というおかしなことになりませんか」

たしかに小規模な個人商店では、菓子類に限らず手頃な価格設定であることが少なくない。この背景には、免税事業者で納税義務がなかったことと、消費税相当分を価格に転嫁しなかったことがあるのだろう。

「我々声優は波のある商売で、僕自身も課税事業者だった年もあれば、免税事業者だった年もあります。それで『課税事業者になって損した』と思ったことは一度もありません。課税事業者、つまり年収1000万円を超えていればその年分を納税するのは当然だと思っています。インボイス導入に反対している人たちも、納めたくないから言っているのではなく、長年の商習慣の影響で納められないんです」(咲野氏)