相手の男性と両想いだと思い込む

これをきっかけとして、川口さんのエネルギーが空転したかのように「暴発」した。彼女は、仕事上の講演会や研究会で知り合った有名な学者や大学教授に、容易に恋愛感情を抱くようになり、積極的に誘いをかけ始めた。そういう場合、彼女は相手も自分に好意を感じていると信じ込み、ひんぱんにメールなどで連絡をとろうとした。

この時期、川口さんには奇妙な行動がみられた。実際には約束をしていないのに、約束があると信じ込み、「今日は相手の男性が家に来る」と主張して料理を準備して待っていることなどが起きていた。

仕事相手につきまとい警察に拘留

50代になって、川口さんは急に恐竜に興味を持つようになり、カナダの大学に留学をした。そこで知り合った米国の学者と、彼女は「恋愛関係」になったと信じこんだ。川口さんはその学者が「自分のことを仕事の助手だけでなく、パートナーとして迎え入れたいと思っている」というサインを送ってきていると信じ、彼に付きまとった。このため川口さんはストーカーとして現地警察に勾留されてしまった。

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本人の言い分では、向こうからの愛情の「サイン」がすごかったのでそれに答えただけだという。もちろんそのような客観的な事実はなく、現地で裁判になり精神疾患を疑われて日本に強制帰国となった。だがその後も彼女はあきらめず、再三アメリカに行こうとして航空券を購入しては空港で止められることを繰り返した。

60代になった彼女は、都心の高級ホテルに宿泊して無銭飲食をした。このため警察に通報されたが、本人からは、「息子が来ると思っていた」「これは警察の策略だ」と不可解な言動がみられたため、精神科に入院となった。

入院時は、「豊島警察A警部の策略です」「私は正常です」と一方的な発言を繰り返す興奮状態だった。それでも投薬により次第に安定し、2カ月あまりたった退院時には、「あのときは被害妄想っぽかった」「今は穏やかになりました。落ち着いて判断できるようになりました」と述べるように変化した。

川口さんの場合、主要な症状は恋愛妄想である。彼女は男性の些細な言葉や仕草の中に勝手に好意を読み取ってしまい、それを確信してしまう。川口さんはこの恋愛妄想が昂じて、ストーカーとして逮捕もされた。診断としては妄想性障害であるが、「老い」と孤独がこのような症状のきっかけであったと考えられるケースである。