「往診」とは患者の生活を見ること

ところで、往診をしてくれるかどうかというのも、高齢者にとってのいい医者を見分ける重要なポイントです。

往診をすると、病院の椅子の上に座っているだけでは見えてこない患者の状況が、よくわかります。むしろ、往診もしたことがないような医師は、高齢者医療を語るべきではありません。

近年こそ、「訪問診療」を掲げて開業する医師が増えましたが、少し前までは往診など一度もしたことがない、という医師が大勢いました。

そういう医師は、患者さんがどんな暮らしぶりをしているのかといったことを何も知らずに、目の前の検査結果の数値だけを見て治療を行いますので、患者にはとても管理しきれないような量の薬を出したりする場合もあります。

その結果、本人はきちんと指示どおりに服用できず、いつまでたっても薬の効果が現れない。そこで、別の薬を試してみるけれども結果は同じ……などと治療が迷走しかねません。

一度でもその患者の家に足を運んでみれば、部屋の中はぐちゃぐちゃでゴミだらけ、机の上には飲んでいない薬が山積み……といったような惨状が一目でわかったはずなのに、病院の椅子から動こうとしないから、肝心の情報にたどり着けないのです。

このような患者さんの場合は、地域包括支援センターなどにつなぎ、そこを通じて要介護認定を受けるなどしてケアマネジャーさんに介入してもらい、日常生活の介助や服薬の管理などの体制を整えていく、といったことが、投薬よりもまず喫緊に対処すべきことであったりするのです。

一日4回のインスリン注射が逆効果になるケースも

あるいは、糖尿病の治療として一日4回のインスリン注射が必要だったとしても、高齢になってくるとどうしても打ち忘れが増えてきます。

打ち忘れるならばまだマシで、危ないのはすでに打ったことすら忘れて、何度も続けざまに打ってしまうことです。インスリンの過剰投与は急激な低血糖を招くなど、大きな危険を伴います。

本来であればヘルパーさんなどに注射の見守りをお願いしたいところですが、一日に何度も注射の見守りに来てもらうのは難しい。そうであれば、本来は一日に4回の注射が理想だとしても、一日1回の注射で済むように調整したほうが、打ちすぎや打ち忘れを防ぐことができて、まだマシでしょう。

ところが、往診して家での様子を目にしない限りは、本人が困っているという状況になかなか気づいてあげられません。結果として、ガイドラインどおりの一日4回の注射という処方が続き、本人はきちんと実行もできず、かえって体調の悪化を招きかねないということになってしまいます。

現実的にインスリン注射が難しいのであれば、糖分の吸収を阻害する薬に切り替えるという方法もあります。

そもそも、膵臓すいぞうの機能障害によってインスリンが分泌されなくなるI型糖尿病と異なり、高齢者の糖尿病のなかには、注射や薬などに頼らずとも生活習慣で改善するものが少なくありません。適切な生活指導をするためにも、ぜひ往診して患者さんの食生活を含めた日常の様子を見ておきたいものです。