「血圧は高すぎないほうがいい」は誰にもわからない

ところが、自分の子どもをいくら褒めてみても、いい気になって増長しただけでちっとも勉強しなかった。そこでビシッと厳しく叱ってみたら勉強するようになった、という人がいたとします。

つまり、その子は少数派である3割のほうに入っていたということであって、「褒めたのにダメだったじゃないか! この実験結果はウソだ!」とはならないでしょう。

究極のことを言えば、いくら統計的なデータがあったとしても、最終的には個人差があるために、その個人にとっての正解かどうかというのは、今の医学ではわからないのです。

今後、ゲノム解析が進んで20年、30年経ったら、自分という個体は血圧が高くても大丈夫な個体なのか、血圧が高いと心筋梗塞になりやすい個体なのか、どちらのタイプに当てはまるのかといったことが明確に見えてくるかもしれませんが、現段階ではわかりません。そこが今の医学の限界なのです。

つまり、今は血圧が高すぎないほうがいいということで治療しているけれども、血圧を下げたほうが長生きする人もいれば、血圧を下げるとフラフラになって長生きできない人もいる。

それが、フィンランド症候群などの大規模調査が示していることであって、必ずしも今の治療の指針で正しいとされていることが、誰にでも当てはまるわけではないですし、そういった定説もいつかは覆されていく可能性もあるのだということを、大学病院の医師たちはもっと謙虚に受け止めるべきだと思います。

血圧と心拍数を計測中
写真=iStock.com/nd3000
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高齢になればなるほど治療の個人差は大きくなる

実際、たとえばマーガリンは植物由来の脂肪だからバターよりも体にいいと言われていた時代があったわけです。ですが、そのうちにマーガリンに多く含まれるトランス脂肪酸がどうやら悪玉コレステロールを増やすのではないかということで、植物由来だからといって体にいいとは言えないんじゃないか、と言われるようになった。

つまり、今、正しいとされていることが、この先、正しくなくなるかもしれないということはいくらでもあります。ところが、「これからも、これがずっと正しい真理」であるかのように今の医学の常識を信じて疑わない医師があまりにも多いのです。

そのうえ、高齢になればなるほど個人差が大きくなります。同じ薬でも、よく効く人もいれば、眠気が強く出てしまう、ふらつきが出てしまうといった副作用のほうが深刻な人もいます。

あるいは、さまざまな数値異常があったとしても、高血圧に強い体質、高い血糖値に強い体質であって、なんら問題がないという人もいるでしょう。

だからこそ医者というものは、目の前の患者の「今」の体調、どんなふうに不調を感じているのか、あるいは数値は異常だけれども不調を感じていないのかなどをきちんと見極めて、その患者の体にとってトータルによいと思われる治療、もしくは治療をすべきでないという可能性も含めて患者と一緒になって真摯しんしに考えていくべきなのです。