英検1級ホルダーでもバタバタ落ちる渋ズの難問

渋幕は、東大の入試を意識したオーソドックスながら質・レベルの高い総合問題、渋渋は恋愛小説の書き方を問う文学的問題が出題されるなど、いずれもほぼ例年通りの出題傾向だった。共通するのは、エッセイ(小論文)で高得点を出さないと、文法や読解問題、リスニングで合格点に達していても足切りされるという点。これが、「英検1級ホルダーがバタバタ落ちる」ゆえんである。

しかも、このエッセイに求められる内容がすさまじい。

例えば、「世界は今後20年間でどのような変化を経験すると思いますか」というお題があったとする。英検1級のライティング問題であれば、テクノロジーの発達、気候変動、人口問題などの一般論を文法やスペルのミスなく書けば、満点が取れるだろう。

しかし、情報網羅的な生成AIが書くような内容では、渋ズの入試では足切り点とされている7割の得点すら見込めないと言われる。わずか12年しか人生経験のない小6には酷な話ではあるが、自身のそれまでの国内外経験、そこから何を学んだか、そしてそれを自分の将来にどう活かし、社会に還元していくのか。

つまり、自分はこれほど魅力的な人物で、入学したら学校やクラスメートにこんな貢献ができますよ、ということを、ネーティブでも使わないような難しい単語や文学的表現を散りばめた完璧な英語で書けた子だけが合格できるのだ。

これほどまでに、渋ズ、渋谷系の帰国入試は難しい。渋渋の帰国生入試では、英語を使わず、算数・国語・日本語作文の3科目で受験できる枠も設けられている。帰国生入試の受験資格は有していながら早々に英語は捨ててSAPIXなどで一般受験対策に励んできた御三家受験者の「前受け」的な場になっており、「隠れ帰国」と呼ばれている。こちらも劇的に狭き門となっていて、両校とも「帰国枠で落ちて一般で合格した」という受験生が毎年存在するのもそのためだ。

もはや「無理ゲー」とすら言われる渋ズ、渋谷系以上に、近年の帰国生の人気を集めているのが、「広尾系」と呼ばれる同じグループの広尾学園(港区)と広尾学園小石川(文京区)だ。

画像=広尾学園中学校「2023年度生徒募集要項」より

広尾小石川は一般の中学入試は2月頭だが、帰国生入試の第1回は11月3日。渋ズや広尾学園を本命とする最上位層が肩慣らしにこぞって受験したが、ふたを開けてみると英検1級ホルダーがバタバタ落ちる展開に、塾関係者らが驚愕きょうがくの声を上げた。

「倍率こそ3.4倍と渋ズや広尾より入りやすいように見えますが、受験生の英語レベルが非常に高かった印象。特に今年度は、後に帰国生入試の国算英3教科型受験のトップ校とされる神奈川の聖光や慶應湘南藤沢(SFC)に合格した受験生も、最初の広尾小石川の入試は落としていたケースも多かった」(塾関係者)と打ち明ける。

同じように広尾学園も300人近い受験生が挑戦したが、合格者は72人で、倍率4倍を超えるハイレベルな戦いとなった。同学園は、ハーバード大学など世界のトップ大学を含め過去累計で数百人単位の海外大学合格者を輩出している。