帰国生入試の小学生が通う塾の実態

なお、こうした帰国生入試の受験生の多くが通う塾がある。前述した帰国生入試の最高峰渋ズ両校の帰国生入試合格者のほぼ100%を専有してきたという専門塾「帰国子女アカデミー(KA)」だ。同塾サイトによると、今回、渋渋は総合格者数21人のうち同塾生の合格者数は19人、同じく渋幕は34人中29人という結果だった。

例年、特に渋渋に強い印象のKAだが、それもそのはず、渋渋の帰国生英語入試問題は、KAの創設者であるチャーリー・カヌーセン氏が同校の英語教師時代に作成したものなのだ。渋渋の英語問題に高い文学的素養が要求されているのは、小説家としての顔も持つ同氏らしさが存分に発揮されている。

「海外現地校と同じ環境」をうたい文句にするKAだが、実際は海外現地校より数段レベルの高い授業を展開していると言われる。帰国トップ校受験を意識して、特に力を入れているのが前述したエッセイだ。小5から、アメリカのハイスクールレベルのエッセイ指導を行う。そのため、渋谷系や広尾系に合格するためには、「受験直前まで海外現地校にいたのではかえって不利になってしまう。小6になるまでに帰国してKAに通わないと無理」というのが、帰国受験生のセオリーになっている。海外在住の受験生も、現地校に通いながらKAのオンラインコースを受講することがマストである。

ここまで主に渋谷系、広尾系をフィーチャーしてきたが、今年度も78人の東京大学合格者を出した聖光(横浜市)や、22人の東大合格者を出した洗足学園(川崎市)など、男女別学の難関中高一貫校も帰国生入試を実施しており、毎年多くの帰国生が受験・入学している。

しかし、幼少期から海外で過ごし、当たり前のように英語を話す環境にいた帰国生にとっては、やはり渋谷系、広尾系といった、グローバル教育を掲げる共学進学校と親和性が高いのは間違いない。今後も、帰国上位層は渋谷系、広尾系、中堅層は三田国際、芝国際、サレジアン国際など都内の新興共学校を目指す図式に大きな変化は起こらないだろう。

そんな国際系を目指す際に注意すべきは、英語教育の早期化に伴い、国内生の英語レベルが年々底上げされてきている点だ。これらの学校の多くは、国内インターナショナルスクール生にも帰国生入試の門戸を開いている。そして、渋谷系、広尾系を目指す国内インター生は、SAPIXや早稲田アカデミーなどの一般受験塾で4教科(算国理社)あるいは2教科(算国)を学びながら、KAで英語の受験テクニックを磨いているのだ。

しばしば「課金ゲーム」に例えられる中学受験だが、年間300万円強の学費のかかるインターに通いながら塾にも重課金している国内インター生の家庭の経済力はおそらく国内最高、一般家庭では太刀打ちできないレベルではないだろうか。

そういう意味では、英語を組み込んだ帰国生入試は、塾業界にとっては大きな金脈とも言える。帰国受験のパイオニアとも言えるena国際部やJOBAが以前から帰国生を対象に国語、算数、英語の受験指導を展開してきたが、ここ10年ほどの間にSAPIXや早稲田アカデミーも海外への進出を加速するなど、帰国入試に力を入れ始めた。

さらに早稲田アカデミーは今年度、単純な英語指導の枠を超えて高度な思考力を養成するための帰国生専門塾「ロゴス」(小4以上対象)を御茶ノ水駅前に開校。渋谷系を狙える英語力と御三家を狙える国語、算数の指導を提供する。KAと早稲アカ型熱血指導のハイブリッド型で、帰国受験生の保護者から熱い注目を集めている。

もはや帰国生入試は、海外からの帰国生という限定された母集団の中での戦いにとどまらない。帰国枠でも英語を課さない学校も多数あるので、どこまで英語の勉強に時間とお金を注ぎ込むのか早めの判断と、志望校に沿った受験戦略が重要になってくる。

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