ベテラン教員も驚いたミラクル保護者の実例2

▼事例2 毎年わが子の所属学級が崩壊している状況での、新年度の担任の家庭訪問(※わが子が学級を荒らしている原因にはなっていない)

この場面において、新しいわが子の担任に何を伝えますか。

A 今度こそ学級崩壊させないよう学級の子供をきちんとしつけてほしい
B どんなことがあっても、どうかわが子を守ってほしい
C 学級経営や教育についてのアドバイスをする

担任側は崩壊の事実を知っているだけに、家庭訪問の際にも緊張感があります。迎える保護者としては自分の子供は特に問題ないのに、何年間も学級崩壊しているという、到底受け入れがたい状況です。学校に対する不信感や文句が山ほどあって当然です。

AやBの選択肢はもちろんあるでしょうし、教育への関心が高い親であれば、Cも不自然なことではありません。

しかしここで、私が訪問した家庭の対応は、予想とは180度に異なるものでした。あいさつを済ませると、保護者はなんと深々と頭を下げて、このように仰いました。

「家庭の方針として、学校でのことは、先生を信頼し一切をお任せすると決めております。一年間、どうぞよろしくお願いいたします。」

言われたこちらがどう思ったか、想像がつくことと思います。ここまでの経緯があってもなお、全幅の信頼を置くと宣言していただいているのです。「もう、とにかく全力でやるしか道はない」とやる気が腹の底から湧き上がってきたことは言うまでもありません。

この事例の場合、AやBのようにわが子を直接守ろう、というのが普通の対応です。ところが、この保護者は、「担任を信頼する」という選択肢をとりました。こんな反応を誰が予想するでしょうか。

写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです

想像するに、こうした保護者の元で育つ子供の心は安定し、確実に自立に向けて成長していくと確信できます。家に帰れば親は温かく受け入れてくれ、学校では先生を頼りにしなさいと諭す。そうなれば子供も先生の言うことを素直に聞き、どんどん伸びていきます。

実際この子供は、学業成績は言うに及ばず、習い事でも全国大会上位の成績を収め、文武両道の素晴らしい成果を上げていきました。

この言葉を言われた担任としても、何とかその思いに報いたいと前向きになります。そうなると、学級のいいところが見えるようになります。結果として、その年度の学級はとても落ち着き、無事に一年間を終えることができました。