なぜ家庭での虐待はなくならないのか。精神科医の益田裕介さんは「かつてに比べて子育てがハイレベル化する中、親が『正しい子育て』を押し付けすぎると、教育虐待が起きる。子育てはある程度で十分と割り切ることも重要」という――。(第1回)
※本稿は、益田裕介『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「親ガチャ」には一定の妥当性がある
社会ではしつけや学校教育は親の義務となります。
ただ近年、その義務は、幼稚園から大学までに限らなくなっています。
いわゆる「意識の高い親」は、子どもが将来どのような職業につくか、そのためにはどのような教育を受けさせるべきかを考えています。
そのため、就職活動や、場合によっては転職まで面倒を見るような親も珍しくありません。
現代においては、もっとも身近な社会人である親のサポートがあるかないかで、子どもの将来が大きく変わります。
そう考えると、近年世を騒がせている「親ガチャ」という概念にも、一定の妥当性があると言えるかもしれません。
親が子どもの社会的成功や自己実現まで考えてサポートできるかが問われる時代なのです。
それを左右するのは、親の知識と経済力です。
要するに、現代の親子問題とは、「格差問題」をはらむものでもあるのです。
子育ての「密室化」
この問題と密接に結びついているのが、子育ての「密室化」です。
これも、時代が進むほど顕著になっている傾向のようです。
戦前まで、子育ては親だけの問題ではありませんでした。家には祖父母もいましたし、家の外の大人たちも子育てに参加しました。
「子どもは地域全体で育てるもの」という意識が自然に共有されていたのです。