ベテラン教員も驚いたミラクル保護者の実例1

▼事例1 わが子(娘)が下校中、一緒にいた子供がふざけていたため、押されて転んでケガをした

この場面で、読者のみなさんは学校や担任教員にどう対応するでしょうか。

A 学校に電話をして事実を伝え、相手の子供を指導してくれるよう依頼する
B 相手の子供の保護者にも謝罪をさせるよう求める
C 学校の監督責任を追及し、具体的行動の決定を求める

このケースは「いたずらしすぎてうっかりケガをさせてしまった」という子供間ではよくあるトラブルです。多いのはAだと思われます。常識の範囲ですし、学校も迅速に対応するでしょう。

一方、Bは学校としても苦慮します。おいそれと承諾できないのです。なぜなら、親御さん同士でうまく話し合いができない場合、双方が怒り出して大炎上することがあるからです。

Cは、言いたくなる気持ちはわかるのですが、何せ子供のすることなので指導しても完全に制御することは不可能です。また、厳格に対応するとなると下校中ずっと教員が付き添って歩くことが考えられますが、実現は難しそうですし、根本的な解決になりません。

この事例では、担任は翌朝登校してきた子供が顔にすり傷を負っていることに気付き、本人に聞いたことで事実を認識しました。関係の子供たちにも事実確認をして、すぐにケガをした子供の保護者に電話をしました。

膝に絆創膏を貼った少女は腰を掛けて休んでいる
写真=iStock.com/kool99
※写真はイメージです

とはいえ、ケガをさせられた側にとっては「ふざけて娘の顔にすり傷をつけられた」状態です。しかも(下校時のことで)担任より保護者が先に事態を把握しています。場合によっては、担任や学校の対応に怒り出す可能性さえ十分にあります。

ところが、当該の保護者は次のように担任に話したのです。

「先生にご対応していただき、大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。娘に事情を聞きました。本人は転んで痛かったしその時は悔しかったようですが、よくよく話を聞いたら落ち着き、ケガ自体は平気と言っておりました。また、転んだのは自分もよそ見をしていたせいでもあると申しております。娘とはよく話し合い、次から登下校の歩行の際には特に気を付けようということになっております。お相手のお子さんも親御さんも、気にされるといけませんので、どうかお気になさらぬよう、これからも変わらず仲良くしてくださいとお伝え願えれば幸いです」

ここで最も大切なポイントは、帰宅して状況を話した子供に対して親は、子供が痛かったことや恐らく悔しかったであろう気持ちをしっかり受け止めているという点です。

また、この子どもは『不親切教師のススメ』で書いているように、「なるべくケガをしないように、自分が気を付ける」という担任の指導を素直に受け止め、普段から相手を責めないという選択をとっていることも重要なポイントです。

そのため、子供も冷静になれて、友達ばかりの責任ではなく「自分事」として考えられています。

この子供と保護者の対応には全く頭が下がる思いでした。正直に言って感動しました。大ごとにならずに済み、押してしまった側の子供の行動もその後すっかり改善されたことも付け加えておきます。